もしかしたら消えないかもしれないんだろう?また会えたら馬鹿だこいつって笑ってやってよ。
そう言って、私たちは別れた。
 泣いた相手がキヨテルで良かった。と思った。ユキちゃんがいたら心配をかけてしまうし、カイトさんにも、泣き顔なんか見せたくなかった。
 好きな人に弱音を見せたくないって、ちょっとかっこつけてる所があるのかもしれないけど、でもカイトさんには笑顔だけ見せていたい。そんな風に思うのは本気の好きと違ってやっぱり憧れだからなのかもしれない。でもやっぱり、そういう、笑顔だけを見せていたい人って、いるでしょう?
 泣いていたせいもあって、いつもよりも帰る時間が遅くなってしまった。けどもう、マスターが私を、ボーカロイドのソフトを開く事は無いから、大丈夫だろう。そう高をくくってパソコンへ戻り録音室へ戻ると、予想外にも録音室の灯は点いていた。
「え。マスター?」
灯が点いているという事は、マスターがボーカロイドソフトを立ち上げた。という事だ。吃驚しながらそろそろと扉の隙間から顔を出すと、マスターが半泣きの表情で画面のこちら側を見つめていた。
「なんでいないのよ。ミキ」
今にも泣きだしそうな、そんな表情でマスターがそう言った。その言葉に、すみませんちょっと出かけてました。と申告すると、勝手にいなくなるな馬鹿。と返事がきた。
「家出をしたのかと、思ったじゃないか」
「家出なんかしませんよ」
吃驚して私がそう言うと、マスターはだって、と怒っているのか泣きそうなのか解らない、複雑な表情で言った。
「ずっと私、あんたを無視してたじゃん。だから、怒って家出しちゃったかと思ったの」
「怒ったりしませんよ」
一体どこからそんな発想がやってきたのか。吃驚した私を見て、そうだよねあんたはそういう子だよね。とマスターが堪え切れない様子で泣きだした。
 このタイミングで突然泣き出すとか。人にはホントに理解不能な所がある。
 怒ってませんよ、本当に。と念を押すように言う私に、マスターは泣いたまま首を横に振った。これは罪悪感からの涙だと、マスターは泣きながら言った。
「ホントは、あいつの事を思い出すし、曲だってまともに創れそうにないし。ミキの事捨てよう、って思ってたんだ」
ざくり、とマスターの言葉が胸の内側辺りに刺さった。そうかやっぱり捨てられるのか、私。
 最後にでも、カイトさんにも会えたし。それにまあ、キヨテルにも会えたし。良かった。そう思おうとした。けど思いきれなかった。
 嫌だなと思った。辛いなと思った。悲しいなと思った。
 それでも覚悟は決まっていた。消されちゃうんだって、いう覚悟だけはもう出来ていた。
 それはとっくの昔、ひとり目のマスターに捨てられた時から出来上がってた覚悟なのかもしれない。だからかな。怒りは、やっぱり私にはなかった。
 俯いて最後通牒を突きつけられるのを待っていた私に、だけど、とマスターは言った。
「だけど、最期だと思って開けたら、ミキいないし。それに、人っぽいのに、あんたこういうところでは従順なんだもん。酷い事、できないよ」
ボロボロと泣きながらマスターはそう言った。
「ミキの事、消せないよ」
そう言ってマスターは号泣してた。
 あれ、私、消されないの?一瞬頭の中真っ白になって。私は無意識の内に画面に手を伸ばした。
 画面の向こう側でマスターは大泣きに泣いていて。私はぽかんとアホみたいに口を開けてその様子を眺めていて。なんだ。
 なんだ、よかった。
 消されないという安心からか、カイトさんを待っていられるという喜びからか、それともマスターとこれからも一緒に居られるという、幸せからか。口元がほころぶのを感じながら私はこんこん、と泣きすぎてしゃくりを上げているマスターのいる向こう側に向けてノックした。
「マスター、最近泣きすぎ。顔、ぐちゃぐちゃですよ」
「うるさい。失恋して情緒不安定なのよ。あんたは今日は何で泣かないのよ」
「実は、さっきまで泣いてました。マスターに捨てられると思ってて」
「ご、ごめん」
ああそうやって。ほらまた泣く。
 拭えない涙をぬぐおうと、私の手のひらはまた無意識の内にぺちぺち画面の向こうに向かってと伸ばしていて。
 今のままじゃどうしても画面の向こう側に行けなくて。カイトさんが画面の向こう側に行きたいと願う気持ちが少しだけ分かってしまって。
 いつか、必ず私たちはいらないと捨てられる日がやってくる。馬鹿だなあ、って思う。愚かだな、と思う。
 それでも私たちは、私達、人ならざるものは人に近づきたくて、人が居ないと生きていけなくて。
 人の温かさに触れていたくて。
 ぼろぼろと泣くマスターの涙をどうやっても拭う事はできないから。代わりに私は歌を少しだけ歌った。
 マスターが教えてくれた、歌。まだ途中までしか教わっていない歌を歌った。カイトさんや、メイコさんたちみたいに上手に歌えない歌。変声期後のようなまだ甘さの残るかすれた声で私は歌を歌った。
 突然歌いだした私に吃驚して、マスターがぱちくりと目を瞬かせた。中途半端な所で途切れてしまった歌声に、目を丸くして、それから困ったように泣き笑いの表情になった。
「へたっぴ」
「それは、マスターの声調に問題があるんです」
マスターの言葉に反射的にぶうとむくれて。私も困ったように笑った。

 世の中、絶対なんてあり得ないの知ってる。どんなに望んでもずっと同じなんて無理な事も知ってる。時間が流れるし、色んな事が変っていく。
 でも。変らないものもあるって、信じても良いのかな。
 このマスターと共に過ごすこれからの時間を信じても、良いかな。

「マスターが捨てると言わない限り、私は居ます」
そう宣言をしたら、捨てたりしないから。とマスターも涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で宣言をしてきた。
「捨てるなんて、馬鹿な事、もう考えたりしません」
泣きすぎてひっくりかえった声でマスターはそう言った。
 幼い子供みたいなその約束事に、私たちは顔を見合わせて破顔した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

泣き虫ガールズ・7

ここまでお読みいただきありがとうございます!

最初はミキさんは無機質な子なのかな。と思っていたのですが。なんか、がつがつと曲を聴いていたらこんな感じの子になりました。
そうなのか、私の中のmiki像はけっこう元気な感じの子なのか~。
と書き終えてぼんやりと思ったりしてます。

ばあちゃんマスターの家の子ではないので、番外編扱いです(私の頭の中では)

女子高校生って昔すぎてわっかんないよ!!!
とか
書いてる最中どこに向かっていくのか分からなくなったり!
とかとか
そんな感じで書いてしまったので、いつも以上に訳が分からないかもしれません…(苦笑)

それでは!

閲覧数:168

投稿日:2012/03/08 15:58:13

文字数:2,498文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    遅くなりましたが、読ませて頂きましたー。
    mikiですか! しまった先を越された……(ボソッ
    番外編というか、本編でカイトが実験に赴くにあたり、ワンクッションのようなお話だなぁと思いました。
    女子高生の気持ちとか、それこそ分かんねぇよ俺……。大いに参考にさせて頂きます!

    自分が消えるかも知れないという状況で、少し冷静な、ちょっと達観した感があるmikiの心情がうまいなぁと思いました。なんとなくですけど、グミと話が合いそう。sunny_mさんはキャラ付けがきっちりしているから、群像劇を書いても埋もれるキャラがいませんよね。いやこの辺はホント見習いたい。

    やっぱりお話の最後はハッピーエンドがいいですね。色々ありましたが、マスターとmikiがより親密になれて良かったです。カイトへの気持ちは残念でしたが、そこはキヨテルのこれからに期待ということでw
    さてさて、この一大群像劇、どこまで広がるんでしょう? sunny_mさんならピコとかボカロ3組まで網羅できてしまいそうですなw そうなったらピアプロ小説内では間違いなく、守備範囲トップですよ!ww
    これからも素晴らしいお話、期待してます!

    2012/03/17 20:07:50

    • sunny_m

      sunny_m

      >時給310円さん
      ぜひぜひ時給さんもmikiさんでお話を書いてください!(←
      女子高生、という生き物は書いてて面白かったけどよく分からなかったです…w

      うわぁ?!ミキはグミさんと話が合いそう。って私も書いてて思いました。よ、よまれてる……!!
      キヨテルさんは今後、ミキのイメージ(ロリコン)から脱却できるのか!?微妙なところですがw
      どうなんでしょうかね、この二人は。ずっと口げんかしてるイメージもありますねw
      キャラ付け、きっちりしてますかね?(訊いてどうする)キャラに関しては本当にボカロという存在に甘えまくって書いています。楽曲であったりそのビジュアルであったり、私は彼らの雰囲気を読み取っているだけですね?。

      この大風呂敷、ちゃんとたためるかどうか心配ですwどうするんだ、自分ww
      それともこのまま広げっぱなしで突き進むか!?w
      それではお読みいただきありがとうございました!

      2012/03/19 20:37:00

  • 藍流

    藍流

    ご意見・ご感想

    おぉ、mikiさんだー!とウキウキ読み出したらシリアス展開で土下座したい気持ちになりました、こんばんは←

    本編のあれこれとリンクしてて、mikiさんと一緒にこちらもちくり、ちくりとしつつ。
    終わりにはやっぱりmikiさんと一緒にほっとしたりもしつつ、読ませていただきました。
    実はこういう番外編とか大好きなのですよー。こう、繋がってる糸が時折チカリと垣間見える感じが。いいよね!

    しかし最初に持っていかれたのはロリコンと断言されてしまった先生でしたすみませんww
    キヨテルさんは何故かそっち属性にされてるのをよく見る気がします。何故でしょうw
    あと買い物デートな年長組にときめかされました……!
    ごめんなさいmikiさん、カイメイ美味しいです←

    何かmikiさんとマスターは、例え歌を作る事から離れても良い友達でいそうだなぁという感じがしました。
    ボーカロイドであるmikiさんが歌わない事を許容できるのか(そしてマスターがその状態を是とできるのか)は別として。
    ガールズ、というのが凄くしっくりくるふたりでしたね。

    2012/03/09 01:52:50

    • sunny_m

      sunny_m

      >藍流さん
      今回は(も?)シリアスになってしまいましたよ。
      最初は、カイトさんへの気持ちもだもだ。っていうとこだけを書きたいはずだったのですが。
      いつの間にやら、なんだか別方向でも、ミキさんもがぁってなってしまってました。。
      不思議だわ?

      番外編はなんだか面白かったので(思わぬ方向に話が飛んでったけど)また書きたいなぁ。と考え中です。
      そうなんですよね!微妙に繋がってるところとか、いいよね!!
      でも予定は未定です…w

      キヨテルさんは、なんでだかロリコンなお人になってしまいました…w
      ユキちゃん効果なのかしら…?なんか、いつの間にやらロリコンにしてしまっていましたww
      そしてカイメイ、私も美味しいです。ごめんミキさん←

      ミキとマスターの二人は仲良く女子の共同生活をして欲しいなぁ。って感じです?。
      確かに歌を歌わない事を許容、できるかどうかは難しいところなんですけどね^_^;
      どうなんだろう、このマスターはすぐ動画巡りに走ってしまいがちだからなぁ。。
      そこんところ頑張れマスター!

      それではコメントありがとうございました!

      2012/03/10 21:27:49

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