翌日、金曜日、三沢はもう一度、(みさこ)のフリマサイトを詳細に見た。購入履歴を見ると、くだんの医学書があった。そのサイトで、その医学書を検索すると、SOLD―OUTになっていた。出品者は(ドクター)というハンドルネームで、取引のコメントが残っていた。
(みさこ)「商品説明にない線引きがあったんで、ゆうパックで返品しますので、返金してください」
(ドクター)「出品時に点検しましたが、線引きはありませんでした」
(みさこ)「じゃ、返品しますから、再点検してください。いずれにしても、キャンセルしたいので、返金してください」
(ドクター)「返品しなくてもいいので、こちらの送料だけでも負担してもらえませんか?」
(みさこ)「いいえ、全額返金してください」
(ドクター)「わかりました。全額返金します。返品は結構です」
 三沢は(ドクター)の出品を閲覧した。発送方法がクリックポストであることを確認し、送料込み300円のマンガがあったので購入した。配送先は蒲田署とした。遅れてきた大田にそのことを説明した。
 午後、たまたまデカ部屋にいた二人は緊急に発生した強盗事件の初動捜査に駆り出された。

 三沢が購入したマンガは翌週の月曜日、蒲田署に配送されてきた。三沢は、昼食後にそれを受け取った。
「このクリックポストの住所で操子に医学書を販売したいきさつを聞きましょう」
 二人は配送元の住所のある川崎市に向かった。住所は、工場跡地に建てられたタワーマンションにあった。ハンドルネーム(ドクター)の人物は3階の住民だった。その住民は蒲田署を記憶していた。身長は170センチほどだった。
「警察がなんでマンガを買うのか、理由がわかりませんでしたが」
「こちらのヤサを知りたかったもんで。ところで、ハンドルネーム(みさこ)に医学書を売ったのは覚えていますか」
「忘れられないです。言いがかりも、いいとこですよ」
「コメントで、返金したうえで、返品不要、と返信していますが、要するに送料を支払ったうえで、ただで商品をあげるということですよね」
「返品するというのは、脅しなんですよ。送料着払いで返品だから、800円とられます。送料込みで千円で販売したんですが、送料ですでに800円支払っているので、返金したうえで、返品されたら、向こうで線引きしたあとで商品が返って来ても、1600円の赤字になります。返品不要とすれば、現金の赤字は800円ですみます。商品はなくなりますが」
「ウエッブサイトの主催社に相談したんですか」
「胴元は大企業です。千円程度の取引では動かない。『当事者同士で解決してくれ』という紋切り型のコピーメールが送られてきただけです。泣き寝入りするだけです」
「でも、かりに取引が成立したとしても、あなたの利益は200円ですよね」
「梱包や発送の手数料です。利益ではありません。胴元に代金の10%を手数料で取られるので、手元に残るのはたった100円です。そこからノリ、紙テープ、紙袋などの梱包コスト、郵便ポストまでの輸送、パソコンやプリンターの減価償却と電気代、古書の倉敷料などのコストを出します」
 大田は三沢の傍らでしきりにハンカチで涙目を拭いていた。
「そんなもんで」
「基本的に、このサイトに購買者として参加している人はおカネのない貧民ばかりで、わたしは、ボランティアとして参加しています。やつらはハイエナのように安物を探しているんです。金持ちは新品を買います。この中古サイトには参加していません。でも、もったいないでしょ。本は読みたい人の手にあるべきですよ」
 かえりがけに、身長を聞き、事件当夜のアリバイを確認して二人は帰署した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

アルチュール「金曜日」

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投稿日:2022/04/02 06:58:03

文字数:1,522文字

カテゴリ:小説

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