次の日になっても、鏡にリンが写る気配はなかった。
名前を呼んで出てくるものでもないと分かっていたレンは、ただひたすら彼女が鏡をのぞいてくれることを願っていた。
初めてだったのだ。誰かに笑顔を向けてもらったこと、優しいと言われたこと、全部全部。

『レン』

鏡から聞こえてきた、少女の声。
レンはハッと鏡を見る。そこには、いつもとは違う、落ち込んだ様子のリンがいた。

「どうしたの…?」

『……私、私っ…どうしたらっ…!!』

その大きな瞳から、突然涙がこぼれおちた。

「何…どうしたのっ…?!」

おろおろとレンが鏡に問いかける。リンは涙を流し続けながら、必死に喋った。

『き、昨日の夕方…両親がっ…殺されてっ…!』

「!!」

『お金も全部なくなっててっ…私…っ』

レンの頭の中が、真っ白になった。
何、この子が何をした?この子が何をしたっていうんだ?
この子は家族のために一生懸命働いていて
それを金目的で殺すなんて。

…嗚呼。

そこまでいって、レンは思った。

僕じゃないか。

僕は僕は僕は僕は
この子を不幸に陥れた奴と、同じなんだ。
歯を食いしばり、少年は喉の奥から声を絞り出す。

「ごめん…」

『え…?』

「ごめん…ごめんなさ…ごめんなさい…」

『レ、ン?』

「僕も…」

全てが壊れてしまうとしても
僕は君に言わなければならない。

「人殺しなんだ」

『…え……』

泣くのも忘れ、リンは呆然とレンを見た。
少年は続けた。

「僕は孤児。生きるために人を殺して、金を奪っていた」

『あ…あ…』

全てを話す少年の口調は、ナイフのように。
ナイフで自らを刺すようだった。

少女の顔に、絶望の色が広がっていく。それでもレンは語り続けた。
これが咎だと思った。
何もかもを告白し、少年はささやいた。

「僕は人殺しだ。でも…君は僕の心に温もりをくれた。だからやり直そうと思うんだ。ねぇ、リン…」

『…やめてっっ!!!!!』

レンの言葉をさえぎったのは、リンの悲痛な叫び声だった。
レンが鏡を見ると、泣き崩れ、両手を頭に添えているリンの姿が。

『やめて…やめてっ…アナタも同じよ…父さんと母さんを殺した奴とっ…』

「リン…」

『私の名を呼ばないでっ!!』

その一言を最後に、鏡は真っ暗になった。多分、あちらから鏡を伏せたのだろう。
レンは深呼吸をして、前髪をかきあげる。

―…こうなることは、分かりきっていた―…

でも言った。それは何故?彼女に嘘をつけなかったから?僕自身に嘘をつきたくなかったから?

なんでもいい、全部同じじゃないか。
これで良かったんだよ…。

自分に言い聞かせる。そして少年はのろのろと立ち上がり、とある場所へ向かった。






少年は、教会の前にいる。
彼に、ここに入る勇気はなかった。
レンは教会の外、十字架が見えるところに跪き、静かにささやいた。

「神というものが本当にいるならば、聞いてください。僕は人を殺しました。自分が生きるのに必要な分だけ殺して、金を奪い取りました。だけど突然僕の前にとある少女が現れ、彼女のおかげで自分の罪から逃げる道を断ち切れそうなのです。ナイフは捨てました。償えるならば、償いたい。神がいるなら答えてください。僕は…」

そのとき、誰かがレンの震える肩を優しく叩いた。
ハッとして振り向くと、そこには慈愛の表情に満ちた男性がいた。

「あ…」

男はにこりと笑い、少年に問う。

「君の名は?」

「レ…レン…」

「君の罪を、私も共に背負わせていただけませんか?」

「え…」

「私は、ここの神父です。君は孤児なのですね?」

レンはこくりと頷いた。神父は再び微笑み、そして言った。

「ここに留まりなさい。そして、神に仕えるのです。君の罪を償う時が来るまで」

ポケットの中の鏡を握り締め、それから、顔を上げてレンはかすれ声で答えた。

「はい」

少年と神父が教会に入っていく。
涙があふれて止まらなくなるレン。昔黒く見えた涙は、今は人と同じものに見えた。

(その罪を背負って生きていく覚悟…)

鏡を差し出した老人の言葉が、レンの頭をかすめた。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

影と鏡と光((タイトル仮④

ちょっとカオスになってきた←
すいませんまとまってなくてorz
もうちっと続きますw

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閲覧数:143

投稿日:2010/10/22 23:06:16

文字数:1,744文字

カテゴリ:小説

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