“プロローグ”



 カップを傾け、コーヒーをくちに含むと、グァテマラ豆特有の赤ワインのような甘みが舌の上に広がった。
 昼下がりの喫茶店。窓際のテーブルにひとり座る男は、湯気のあがるコーヒーをソーサーに置きながら、物思いにふけっている。
 スカジャンを着た若い男だった。微笑む菩薩が刺しゅうされている。窓から入ってくる昼下がりの陽光に目を細めるその様子は大人びていて、30代のように見えるが、無垢な輝きを持った瞳からは少年のような純粋さもうかがえた。
 スカジャンの男は考える。
 世の中に数多ある創作物。
 映画や演劇、小説、絵画、まんが。
 そして、ゲーム。
 創作物である限り、それらは虚構である。
(……だが)
 と思う。
 虚構。それは、ひとつの見方にすぎない。
 別の視点から見れば、その性質は全く異なる。
 人によって創り出された全ての世界は、外から見れば虚構なのだろう。だが、虚構の中に入って内側から見ることができたなら、そこは虚構ではなくリアルだ。
(それ以前に、こちら側が虚構でないと誰が言える?)

 からからん

 ドアベルが鳴って、小学生男子と思しき少年が入ってきた。
「あっ、オジサンこんなとこに居た!」
 少年は遠慮なく言いながらスカジャンのいるテーブルに駆け寄る。
 スカジャンは少年の方にちら、とだけ視線を向けただけで、意に介してないかのように落ち着いた動作で、コーヒーをひとくち飲む。そしてカップをゆっくりソーサーに戻す。
「……テツヤか」
「テツヤか、じゃないよ! なんで約束した場所にいないのさ!」
 テーブルの前で細い腕を振り回しながらわめくテツヤと呼ばれた少年にスカジャンは視線だけちら、と向ける。
 コーヒーをまたひとくち飲んで、ゆっくりソーサーに戻す。
「…………すまない」
 男の言葉を律儀に待ってから少年は、
「今日はビッグコア攻略のコツ教えてくれる約束だったろ!? 向かいのゲーセンでさ」
 言う。
「……まあ座れよ」
「いや、あ」
 あくまでマイペースなスカジャンに気勢を削がれたテツヤは、ついおとなしく座ってしまった。「ジュースおごれよな」吐き捨てるように言いつつ。
「すみません」スカジャンが挙手して店員を呼ぶ。
「およびでしょうか」
「アイスひとつ」
「かしこまりました」
「ん?」とテツヤは思って、店員が去ってから、「いや」気付いた。「アイスコーヒーじゃなくてジュースが飲みたいんだけど」
「……」
 ゆっくりコーヒーを飲むスカジャン。
 テツヤの話は聞いていないようだった。
「お待たせしました」店員がアイスコーヒーを持ってきてテツヤの前に置く。
「テツヤ……。外から見れば虚構でも、中から見ればリアルだと、そう思わないか?」
「にがっ」テツヤは不満そうにしながらも出てきたアイスコーヒーを飲んでみたが、とても苦かった。「うえー、みずみず」ごくっ「なんか言った?」
 スカジャンは、ふっ、と笑って、日に照らされて薄く輝く窓の外を眺めた。
「オジサンなんか言った?」
「……なあ」窓の外を眺めながらスカジャンがつぶやく。「ゲームは好きか?」
 その質問にテツヤは表情をぱっと明るくした。
「もちろん!」大好きなものの話をするのは楽しい。「だってわくわくするじゃん!」
「……なによりも、か?」
「当ったり前じゃん! だから、なあー、早くゲーセン行こうぜ」
 また、ふっ、と笑う。
 テツヤはスカジャンのその表情を見て、なにか心から嬉しいことがあったんだろうか? と思った。大きな感情を抑えて、声に出して笑いだすのをこらえているような表情だったから。
 テツヤは、なぜか、照れくさい気持ちになった。それで、
「きもちわるっ」
 と言った。
「……そろそろ行こうか」
 菩薩のスカジャンを着た男が伝票を手に立ち上がる。
「夢(ゲーム)へ遊びに」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

シューターの憂鬱 プロローグ

STG(シューティングゲーム)に燃えるやつらの熱い日々を、へたれにわかシューターのうp主がゆるく書く。
小説で遊びたくて書き始めました。
動画化という遊びはこちら→http://www.nicovideo.jp/watch/sm12350273

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投稿日:2010/10/12 00:54:42

文字数:1,604文字

カテゴリ:小説

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