「ロボター?どこ行ったの?ロボター!」
サイドテールの女の子はそう何度も似たような文句を口にしながら家の中を探し回っている。
「メロディ、ロボタ知らない?」
彼女は通り掛かった末の妹におもむろに尋ねた。
「さぁ?今日は見てないニョ。」
おさげ髪の妹は風変わりな語尾と共にそっけなく返す。
「ただいま戻りましたー。」
そこへ玄関の扉を開けてメイド服の少女が帰って来た。
「あっ、A子ちゃん。」
私はパタパタとスリッパの音を立てて彼女の方へ駆け寄っていく。
「ロボタがどこかへ行っちゃったの、A子ちゃん見なかった?」
焦りの表情を隠せない長身の女性に対し、A子と呼ばれた女の子は申し訳なさそうに口を開いた。
「あぁー、それならですね…。」

同時刻、小さな機械人形はとある男の借家である2階建てのアパートの一室を訪れていた。
「さぁ!あんまり綺麗な場所じゃないが、まぁ入ってくれ。」
男はドアを開いてそのロボットを自宅に招き入れる。
「ガガガ。」
彼は電子音声で返事をすると、恐る恐る家の中へ扁平足な足を踏み出した。
「充電コネクターは既製品で対応出来るみたいだな。」
そう言って男は自分の部屋をガサガサと物色する。
「悪いけど、あの強化アーマーはしばらく預からせて貰うぞ?今のお前には過ぎた代物だ。」
そんな事を呟きながら彼は充電用のケーブルを見つけると、今度はポケットから取り出したメモ用紙に目をやった。
「オイルはまた後で買って来るとして、他にリズムさんから言われた事は…。」
そんな様子を傍目にロボタはキョロキョロと首を動かして興味深そうに周囲を眺めている。
机の上にはノートPCが置かれている他、本棚の周りには収まり切らない書籍が積まれ、部屋の片隅にはガラクタのような機材がいくつも散乱していた。
『ドンドンドン!』
そうしてどれくらい時間が過ぎただろうか、入り口の方から誰かがドアを叩く音が聞こえる。
「ガガ?」
男は無言で玄関へ向かい、扉の覗き窓から外の様子を窺うと、そこにはなにやら怖い顔をした女性が立っているのが見えた。
『カチャリ…。』
意を決してドアを開けると、彼は目の前の彼女に挨拶をする。
「こんにちはカノンさん。A子ちゃんから話は聞いて貰えましたか?」
すると相手の女性は無愛想に男の顔を見た。
「ええ、伺いました。早速ですが、ロボタを返して下さい。」
カノンはそう言って自分の要求を簡潔に伝える。
「立ち話もなんですから、中で話をしません?汚いですけど。」
彼は腰を低くして不機嫌そうな私を部屋の中へ誘う。
「いいえ、ここで結構です。」
それに対して、彼女はキッパリと断りを入れる。
「ふむ…、ロボタは自分の意思で俺の所まで来たんですよ?」
そんな男の弁明に、カノンはピクリと眉を動かした。
「ガガー!」
二人が話をしていると、奥の方から充電ケーブルを抱えたロボタが出てくる。
「ロボタ!心配したのよ。さぁ、一緒に帰りましょ?」
私は丁寧な物言いで彼の説得を試みる、しかしロボタはそれ以上動かなかった。
「ロボタ…。」
その様子を見て、男は「ハァ…。」と溜め息を吐く。
「なぜ俺の所まで来たのか、その理由は分かりません。悪い言い方をするなら、ロボタは『暴走』した事になるでしょう。」
彼は途中から多少語気を強めにして喋った。
「暴走…。」
不穏な表現に、彼女の顔からサッと血の気が引いていく。
「ですが俺の推測ではロボタは別にプログラムが狂った訳じゃない。恐らく何か彼を駆り立てた原因がある…。」
長々と持論を展開する男に、カノンは気圧されて僅かながらたじろいだ。
私を怯えさせてしまっていると感じたのだろう、彼は一呼吸置いてから出来るだけ落ち着いたトーンで囁く。
「少し、将来の話をしましょうか。」
男はわざと壁に手を付いて後退りするカノンに詰め寄った。
「しょ…将来!?」
彼女は心臓をドキドキさせながら慌てて聞き返す。
「もしロボタが今後同じように自分の判断で動いて、誰かを襲うような事があったら、貴女はどう対応します?」
非常にゆっくりと、しかしハッキリした口調で彼は私に問いかけた。
「それは…。」
人が使い方を誤れば、機械はいとも容易く暴走する。
いや機械だけではない、人間同士のやり取りにしたって少しの誤解から思わぬ行き違いに発展してしまうケースは珍しくないのだ。
ロボットに理解の無い人間がそのような被害を受けた場合、面倒な事態になるのは簡単に予想出来るだろう。
「…その時は、私が全力でロボタを止めます!」
カノンはしばらく間を置いてから、彼女の返事を待っている男にそう言い放った。

それから彼女は、ショボくれた雰囲気で自転車の前カゴにロボタを乗せて夕闇の中を歩いていた。
『あいつはダメだね、期待外れだよ。』
先日、夢の中で聞いたそんな声が頭の中で反響する。
(違う…あれはおねぇちゃんが言ったんじゃない。)
長い間一緒にいた自分がロボタの事を分かっていなかった事、
ほんの数回合っただけの男がロボタの事をすっかり理解してしまった事、
無意識にロボタへ八つ当たりのような態度を取ってしまっていた事…。
悔しさや情けなさの感情で、カノンは泣きそうになっていた。
(あれは私の、心の声だ。)
彼女は今すぐ大声で泣き叫びたい衝動に駆られたが、その前にやらなければならない事があるのを自覚し唇を噛む。
「ゴメンね、ロボタ…。」
先行きの不明瞭な頼りない歩みの中で、彼女は小さな背中にそう謝った。
「ガガ!」
その言葉へ呼応するように腕を振り上げて元気良く返事をすると、彼は目のライトを光らせてカノンの進む道を優しく照らしていった。

ロボタとカノンが帰った後で、男は一人部屋の中で手に持った充電ケーブルを残念そうな眼で見つめている。
そして何もない部屋の床へ視線を向け、少し前までそこにいた小さなロボットの姿を思い起こした。
関節の駆動部、モーター、フレーム、センサー、電子回路…。
細かい内部機構までは分からないが、ザッと見積もってその稼働限界は恐らくあと10年ほどだろうか?
「そのくらいの事、わざわざ俺が言わなくても分かってる筈だ…。」
そんな独り言を呟くと彼は部屋の明かりを消し、
壁にもたれ掛かって窓から見える夜空の美しい月を仰いでいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

#12:秀才VS奇才

jamバンドメンバーの一人、鼓カノンを主人公にした二次創作小説です。
(オリキャラ・オリ設定注意。)

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投稿日:2025/05/17 14:45:50

文字数:2,595文字

カテゴリ:小説

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