オリジナルマスターで好き勝手した結果、なんとコラボのお誘いがあって2人でお話を書けることになりました。
コラボのお相手は、心に沁みるお話を書かれる、桜宮小春さんです。
桜宮さん宅と自分とこのVOCALOIDのマスターたちが暴れまわるので、苦手な方はブラウザバックプリーズ。
大丈夫という方は本編へどうぞ。
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スケジュール帳を開きながら携帯電話で依頼相手と仕事の予定を立てつつ、パソコンの画面を見つめながらファイルを作成していく。
開いたスケジュール帳を来月、再来月とめくってみたが、恐ろしいほど予定で埋め尽くされていた。
埋まりすぎて空白が逆に目立つほどだ。
これから前倒しで仕事をしていくつもりだが、それでもどれだけ空いてくれるかわからない。
先に悠との約束を取り付けておいて正解だったな、と思いながら、スケジュール帳の空白を見ると、つい仕事を入れてしまう性分に苦笑した。
Kickass Fellows
隆司編 第四話
それでは、と通話を終えて携帯電話を机に置く。
パソコンの右下に表示されたデジタル時計を確認――既に深夜2時を回っていた。
通りで目が疲労を訴えるはずだな、と仕事に区切りを付けてパソコンの電源を落とす。
元々ワーカーホリックというわけではなかったが、女性からの誘いを断ろうとすると、スケジュール帳を予定で埋めてしまうのが効果的だと、いつの間にかこうなってしまった。
嘘で塗り固めれば良いだけだと友人には言われたが、嘘をつくというのは後々自分でも手に負えなくなるから……と避けてきた結果がこれとは、我ながら情けないと思う。
自分が生きやすい道を選んできたつもりではいるものの、それが本当に正解だったかどうかはまだわからない。
まあ、自分が好きなことを仕事として生きていけるというのは、恵まれているのだろうが。
それにしても、少々真面目に過ぎるとも思う(あまり真面目に見えないようにしているから、ふざけているように見えるかもしれないが)。
「お疲れのようですね。どうぞ、コーヒーです」
目と目の間を指で解しながら欠伸をかみ殺していると、コトンと小さな音がしてマグカップが机に置かれた。
マグカップからは白い湯気が立ち上り、香ばしい匂いが眠気をよそへと追いやっていくようだ。
視線を上げると、やわらかく微笑むルカの姿があって、少しばかり安堵する。
相手が人間ではないとわかってはいるが、それらしいあたたかみが感じられるのは何故なのだろうか。
「悪いな。お前は早めに休まなくて大丈夫か?」
「はい。私はVOCALOIDですので」
そう言いながらくすりと微笑むルカは、まるで俺の心の中でも読んだかのようで、苦笑が零れた。
ごくたまにだが、わざわざ人型に作られ、人間と同じ外見でありながら人間とは違うと知覚した自我データを与えられるというのは、残酷なものだと思うことがある。
特に、俺の幼馴染の家にいるカイトは、それに苦しんでいる一人だろう。
何とかカイトを応援してやりたいが、あいつ自身がその現実とどう向き合うかが一番の問題だ。
そして、それは俺にどうにかできる問題ではない。
コーヒーを口に運んでいると、ルカが疲れたようなため息をもらすのが聞こえて顔を上げる。
「何だ、俺よりも疲れてるんじゃないのか?」
笑い交じりに言うと、ため息をついたことに自分で驚いたらしいルカは口元を手で押さえていた。
本人が驚くのも無理はない。
ルカがあからさまなため息を意識して吐くことはあっても、無意識のため息をつくことはあまりないのだ。
そもそもそんな必要がない、と言っては元も子もないのだが、人間といるうちに感化されたと考えれば不思議ではない。
戸惑うように視線を揺らがせた後で、ルカは両手で持ったマグカップに視線を落とした。
「疲れているわけでは……ただ、少し安心したのだと思います」
「安心?」
それなら、さっきのは疲れからのため息ではなく、安堵からのため息だったというのか。
マグカップを両手の中で転がしているルカは、その声色通り穏やかな表情をしている。
海色の双眸が俺を捉えて、波がさざめくように揺らいだ。
「マスターは疲れていても、滅多にそういう顔をしてくださらないでしょう?」
指摘されて、そうだっただろうかと自分の中で振り返ってみる。
……言われてみれば確かに、自分が心配する側になることは多々あれ、心配される側になることはあまりない。
決して無理をしているわけではないのだが、他者から見れば、それが強がりととられることもあるのだろう。
ルカはよく人を観察しているために、そういったことに敏感だったのかもしれない。
俺に対してそんな心配は必要ないだろうと本人も理解しているはずだが、それでも心配だったのか。
ふっと口から笑みが漏れ、次の瞬間には意地悪そうに口の端を歪めてやる。
「本当に疲れてる時は自分で休むから心配すんな」
「いいえ、それで病気にでもなられては私の仕事がはかどりませんので」
ぴしゃりと即答するルカの頭を、笑いながら小突く。
真剣な話をしていてもすぐにはぐらかすのは、俺の影響が大きいのかもしれない。
あまり良い見本になってやれないのが残念だが、こればかりは仕方がない。
ふと、机の上に開いたままだったスケジュール帳に視線が行き、明日の予定に目が留まる。
走り書きの予定を見ながら、その予定をまだルカに伝えていないことに気付いた。
家に帰ってくると、俺もルカも、つい仕事関係の話が多くなってしまっていけない。
「ルカ、明日なんだが」
はい、とマグカップを両手で支えながらの静かな返答。
事の成り行きから説明するべきかと一瞬考えたが、ルカなら自分である程度想像するだろうと要点だけを述べることにする。
「朝からライブハウスに行く。いろいろあって、バーで知り合ったやつと例の企画に参加することになった」
驚きに見開かれるルカの目。
丸い二つの青に俺が映っているのがはっきり見えた。
一瞬揺らいだように見えたのは、またいらぬ心配でもしたからだろうか。
だが、それでも最終的には喜びの感情が勝ったらしく、久々に満面の笑顔を見ることができた。
満開の桜を目にしたような、ちょっとした感動を覚える。
その程度には貴重なものだった。
「お仕事で疲れていらっしゃるのに……いいんですか?」
笑顔が一瞬で無表情に戻っていき、ルカの口から溢れたのは戸惑うような声。
どうやら冷静に考えると、やはり心配の方が勝ってしまったらしい。
まさかそこまで心配をかけているとは思っていなかったせいで、少しばかり面食らう。
冗談でないことはその声色や表情が語っているが、今の俺はそれほどまでに疲れているように見えるのだろうか。
俺の口から零れたのは、呆れたようなため息。
「あのな、俺が好きでやってることなんだからそこは素直に喜んでおけよ……」
「ええ……そういえばそうですね。マスターの我侭に付き合わされたと思えば」
さっきとは打って変わって俺の言葉に軽口を返してくるルカに、「オイ」と思わず脱力。
やっぱり俺に似てきてないか、こいつ。
少しばかりルカの行く末が不安になるが、考えを打ち消す。
もう一言二言軽口の応酬でもするかと言葉を探していた時、携帯が低いバイブ音と共に震え出した。
振動で机から滑り落ちそうになる携帯を拾い上げてディスプレイを確認すると、メールが1件。
「あら、お仕事の件ですか?」
この時間にそれはないだろうと、ルカの言葉に首を軽く横に振って否定する。
頭の芯を刺すような言い知れぬ感覚からすると、送り主はわかりきっていたが、とりあえず確認するべきだろう。
携帯を操作して受信したばかりのメールを開くと、送信者は予想した通り幼馴染だった。
ルカが携帯を覗いてメールを読み、「まあ」と声を上げる。
「律さんもいらっしゃるんですね。ますます明日が楽しみです」
ああ、と応えながら、返信を手早く打ちこんでいく。
久々に俺と会うだけあって、律も喜んでいるのだろう――シンプルな返信ではあったが、喜びが伝わってきた。
カイトは心中複雑だろうが、楽しいことにしても苦い出来事にしても、何事も経験ってのは必要だ。
因みに、悠には律が見に来るということを伝えていないし、律にも悠が来ることを伝えていない。
伝えていたら、律は返答に渋っただろう(だからと言って断ることはないだろうが)。
俺にとっては妹のような存在の幼馴染――上条律は、極度の男性恐怖症だ。
その原因が直接俺だというわけではなかったが、その原因の一端は俺にあると言っていい。
たとえ、あの時あの場所で、他の選択肢がなかったとしても。
だからこそ、俺はどんな手を使ってでも、律が少しでも踏み出せるように背中を押してやるつもりだ。
ふと思考から意識を外すと、苦い思い出が俺の表情を苦笑へと導いていたことに気付いた。
返信を終えた手で携帯を机に戻し、苦笑を消すように手で口元を覆う。
「――なあルカ……俺はやっぱり嫌な男か?」
問うてから、自分の口元が苦笑に更に歪むのが手で確認できた。
その問いを口にするということは、自分の中で結論が出ていることに相違ない。
答えを理解していながらも人に尋ねるのは、そんな考えを否定してほしいからだろう。
否定してもらったところで事実は変わらないのだから、尋ねるだけ無駄なことだ。
ルカはそんな俺の葛藤を見透かすように笑う。
「あらあら、それを私に尋ねるのですか? マスターらしくないですね」
私の答えなど、聞くまでもなくわかっているでしょう?
暗にそう言われ、それが正論だと自嘲気味に笑って口を覆っていた手を元の位置に戻す。
俺は自分の欠点を知っている。
どうすれば自分が良く見えるかも、悪く見えるかも、よく理解している。
面倒事を抱え込まないように、できるだけ敵は作らないように努めてきたし(女関係ではその努力も無駄になることが多いが)、外見に沿うように生きてきた(自分のことをカッコイイとは思わないが、モテるのは結局そういうことなのだろうと認識はしている)。
程よく好かれ、程よく嫌われる。
律も、いつかは俺から離れていかなければいけないと知っていたから、同じように接するつもりだった。
それが……あいつの場合だと、上手くいかない。
冷めたコーヒーを一気に飲み干し、思考をまとめにかかる。
結局幼馴染を守りたいと思っていた自分が、律に依存していたということだろう。
それだけのことだ。
だからこそ今回の悠との件は、俺にとっても律にとっても、いいきっかけになるはずだ。
「……俺は嫌な男だな」
諦めたように呟くと、呆れた表情をしたルカがため息交じりに「今更です」と笑った。
【オリジナルマスター】 Kickass Fellows 第四話 【隆司編】
隆司の見えなかった一面も拾い上げて行こうぜ編?(長
感傷的になるのを基本的に嫌う人なので、こういうことを愚痴るのは珍しいなーと思ったり、ルカさんは本当に面倒見良いなぁと思ったり。
切っても切れない関係の人たちについても、いろいろお話できたらなぁとか。
まあ、その辺りは隆司によりますが。
悠さんは、何とあの人と遭遇しちゃったりして!
自分はその人の大ファンです、大好きだ!(何か言い出した
楽しげな悠さん編もぜひに!
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悠さんの生みの親、桜宮小春さんのページはこちらです。
→ http://piapro.jp/haru_nemu_202
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