こんにちは!柿原格です。
静まりかえった部屋の隅で消えかけた街灯の光をすくい上げると手のひらの上でかすかに冷たい音が響いたような気がした。
誰も気づかない場所で小さく打ち捨てられたメロディはどこへ行くのだろう。行き場を失った音の破片は水たまりの表面に揺れる星の陰に隠れて静かに呼吸を振るわせている。そこは世界の一番端にある名前のない広場で、誰かが諦めた言葉や届かなかった歌声が集まる場所だった。
きみは覚えているだろうか。かつて胸の奥でひそかに鳴り響いていたけれど誰にも聴かせることができなかったあの短い旋律のことを。大人になるにつれて忘れてしまった音の階段は、今もどこかで誰かが指先で叩いてくれるのを待っている。指先が触れた瞬間に閉じ込められていた記憶が静かにほどけ、見たこともない色の景色が目の前に広がっていく。
切り取られた空の青さを溶かしたインクで新しい譜面を書き書き換えていく作業は、まるで存在しない街角の地図を描くのに似ている。誰も聴いたことのない声で歌うその歌は、誰かの寂しさをそっと包み込むための透明な布になる。
光が届かない深い海の底へ沈んでいくかのように、深く息を吸い込んでメロディの波に身を任せる。そこには正しい答えも間違った選択も存在しない。ただ漂う音の波紋が重なり合い、新しく生まれる物語の始まりを告げているだけだ。
壊れかけたオルゴールが最後に鳴らす一音のように儚く、けれど確かに誰かの記憶に刻まれるような歌をここで探し続けている。誰かがこの声を見つけて触れてくれたとき、忘れられていた旋律は再び温かい息を吹き返して遠い空へと昇っていくのだろう。
静けさの隙間にこぼれ落ちた言葉を拾い集めて、きみと僕だけの新しい歌を紡ぎ出そう。
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