猫の日常と池本康弘 番外編:そして、また会う日
あの冬の朝、猫は
何も言わずにいなくなった
いつものように陽だまりにいて
いつものようにあくびをして
いつものように、ドアの前でじっとしていた
池本康弘は、ドアを開けて
「行くのか?」と聞いた
猫は少しだけこちらを見て
それから、ゆっくりと外へ歩いていった
それが最後だった
探した日もあった
名前を呼ばないまま、心のなかだけで何度も呼んだ
でも猫という生き物は
帰らないとき、ほんとうに帰らない
春になり、草が伸びても
猫の姿はなかった
夏の夕立が通り過ぎても
池本の足元は、少しだけ広かった
それでも日々は流れ
彼は言葉を書き続けた
猫がいなくても、書けるようになった
けれど――
猫がいる時ほど、なめらかではなかった
歳月は音を立てずにすぎ
ある朝、彼はゆっくりと椅子から立ち上がった
外の空気が変わっていた
木々の緑が、どこかやわらかく見えた
そして、そこにいたのだ
ひとまわり小さく
目だけが、あの猫と同じ色をした子猫
庭の石の上に、じっと座っていた
池本康弘はしゃがみ込んで
「……お前か?」とつぶやいた
子猫は何も言わず
ただ、すっと彼の膝の上に飛び乗った
そのぬくもりに、言葉はいらなかった
名前も、呼び方も、記憶すらも
すべてが静かに結びなおされていくようだった
そして今日もまた、彼は書いている
机の向こうで、子猫は眠っている
時々目を開けて、確認するように彼を見て
それから、また目を閉じる
別れは終わりじゃなかった
再会は、始まりだった
猫の日常と池本康弘 番外編:そして、また会う日
あの冬の朝、猫は
何も言わずにいなくなった
いつものように陽だまりにいて
いつものようにあくびをして
いつものように、ドアの前でじっとしていた
池本康弘は、ドアを開けて
「行くのか?」と聞いた
猫は少しだけこちらを見て
それから、ゆっくりと外へ歩いていった
それが最後だった
探した日もあった
名前を呼ばないまま、心のなかだけで何度も呼んだ
でも猫という生き物は
帰らないとき、ほんとうに帰らない
春になり、草が伸びても
猫の姿はなかった
夏の夕立が通り過ぎても
池本の足元は、少しだけ広かった
それでも日々は流れ
彼は言葉を書き続けた
猫がいなくても、書けるようになった
けれど――
猫がいる時ほど、なめらかではなかった
歳月は音を立てずにすぎ
ある朝、彼はゆっくりと椅子から立ち上がった
外の空気が変わっていた
木々の緑が、どこかやわらかく見えた
そして、そこにいたのだ
ひとまわり小さく
目だけが、あの猫と同じ色をした子猫
庭の石の上に、じっと座っていた
池本康弘はしゃがみ込んで
「……お前か?」とつぶやいた
子猫は何も言わず
ただ、すっと彼の膝の上に飛び乗った
そのぬくもりに、言葉はいらなかった
名前も、呼び方も、記憶すらも
すべてが静かに結びなおされていくようだった
そして今日もまた、彼は書いている
机の向こうで、子猫は眠っている
時々目を開けて、確認するように彼を見て
それから、また目を閉じる
別れは終わりじゃなかった
再会は、始まりだった
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