-帽子屋の屋敷の薔薇園(地面:コンクリートタイル)-
帽子屋「紅茶のおかわりを」
【カップを(投げて)落として割れた音】
アリス「えっ」
帽子屋「何だ?」
アリス「だって、まだ、飲んでいなかったのに」
チェシャ猫「ねぇ、僕この席飽きちゃった。ほらアリス、席を変えよう?」
【チェシャ猫が椅子を叩く音】
アリス「え、ちょっと! 私、まだ紅茶を飲んでいないのに……」
チェシャ猫「はい、このクッキーも美味しいよ?」
【カップを(投げて)落として割れた音】
アリス「ああっ、カップが割れちゃった!」
チェシャ猫「そんなことどうだっていいよ」
帽子屋「アリス、もう少し静かにお茶は飲めないのか?」
アリス「私はまだ一口も紅茶は飲んでいない!」
帽子屋「だったら飲めばいいだろう?」
チェシャ猫「そういえば帽子屋、あいつはどこにいるの? いないなら別にそれで……それがいいけど」
帽子屋「あいつなら」
三月兎「あはは!」
帽子屋「猫の怯えに誘われ来たようだな」
<楽しそうに、静かに>
三月兎「あはは! いっつもいっつもお茶会ばかり!」
チェシャ猫「帽子屋」
帽子屋「何だ?」
三月兎「んん? んんん? ありす? アリスだ!」
アリス「えっと」
三月兎「えっと? えっと! 僕は三月兎、よろしくね! アリス!」
チェシャ猫「ああ、うるさいのが来た」
アリス「よろしくね、三月兎」
三月兎「ケーキ! ケーキがたくさんだ! クッキーも紅茶も! 帽子屋、これ食べてもいーい?」
帽子屋「ああ、構わないさ。好きにするといい」
三月兎「やった! 甘いねとっても甘いね!」
チェシャ猫「まだ食べてないじゃないか」
三月兎「何か言った? チェシャ猫」
チェシャ猫「別に」
<不機嫌に>
三月兎「アリスはどうしてここにいるの?」
アリス「え、私は白兎を探していて」
三月兎「どうして白兎を探しているの?」
アリス「どうしてってもちろん……」
<数秒 間を空ける>
チェシャ猫「アリス?」
三月兎「あはは! あはははは! 答えられないの? 答えられない!」
アリス「違う、気になるから。それだけ!」
三月兎「どうして気になるの?」
帽子屋「三月兎」
三月兎「なーに帽子屋!」
帽子屋「ほら、これを食べるといい」
三月兎「むぐ? もぐもぐ、うん! 美味しい! 次はあれ!」
帽子屋「好きに食べろと言ったはずだ」
チェシャ猫「……だから三月兎は嫌いなんだ」
アリス「私は」
帽子屋「白兎ならば城にいるだろう」
アリス「え?」
チェシャ猫「帽子屋?」
帽子屋「一人が寂しいというのならチェシャ猫を連れて行くといいだろう」
チェシャ猫「ちょっと!」
帽子屋「どうしたチェシャ猫。ずいぶんと肩入れをするじゃないか。城へ行ったってすぐに死ぬわけじゃない」
チェシャ猫「白兎はアリスを」
【カップが割れる音(台詞をかき消すように)】
三月兎「あーあ、割っちゃった! あんまりにも美味しいから落としちゃった! あはははは!」
帽子屋「そうか、それはよかった」
アリス「さっきから何の話をしているの? お城がどうとかって」
帽子屋「アリスはチェシャ猫と城へ行くという話だ。そこに白兎はいるはずだ」
アリス「帽子屋は来ないの?」
帽子屋「来てほしいのか?」
アリス「べ、別にそういう意味じゃ……!」
帽子屋「ふふっ。チェシャ猫、アリスは行く気だぞ?」
チェシャ猫「ああ、ああっ! アリス、本当に行くの?」
アリス「だって、私は白兎を探しに来たんだもの。チェシャ猫は来てくれない?」
チェシャ猫「……仕方ないから、行ってあげるよ。アリスが殺されちゃったら僕は」
三月兎「僕は?」
チェシャ猫「……うるさい兎だ。紅茶の海で溺れてしまえ!」
三月兎「あはは! 紅茶の海なんてないよっ? あはは!」
チェシャ猫「ああもう! アリス、早く行くよ!」
<チェシャ猫とアリスの足音>
アリス「あっ……ふふっ」
チェシャ猫「何笑ってるのさ」
アリス「ううん、何でもないよ」
帽子屋「気をつけるんだぞ二人とも」
<数秒 間を空ける>
帽子屋「それにしても、ずいぶんと汚されたものだ」
三月兎「あはははは! ケーキはぐちゃぐちゃ! クッキーは粉々!」
帽子屋「だいたいお前のせいだろう」
三月兎「知らない! あはは!」
帽子屋「いつものことだ」
三月兎「これは食べてもいーい? あ、これも! あれは? あれも!」
帽子屋「好きにするといい。ただし、屋敷の中でだ」
三月兎「わかった!」
【コンクリートを跳ねる(歩く)音】
<足音が消えてから>
帽子屋「珍しい客人だな」
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