ボカロチームが後攻。
最初に、がくぽがペナルティエリア内に入る。
「がくぽさん、頑張って!」
ミクが声をかけると、がくぽはちらっとそっちを見て、小さく笑った。
「えーちょっと、ミクちゃんずるい!私だってがくぽさん応援したい!」
「じゃあレンカちゃん、こっちチームくればいいのに……」
「来れないんだよぉ、亜種だからっ!強制的にあっち参加なの!」
あ、そっか、とミクが頷く。
そのとき、向こうのファーストキッカーであるミクオが蹴った。
亜種側も力押しで来たらしく、がくぽの指先を掠めて、ボールはそのままの勢いで右上に吸い込まれて行った。
「っしゃ!」
ミクオが小さくガッツポーズをする。
「ミクオナイス!ハク、頑張れっ!」
レンカがミクの隣で叫ぶ。
「……そういえば、なんでレンカちゃんずっとこっちのベンチにいるの?」
「え、向こう飽きたから。まぁいいじゃない」
こういうところもかなり自由な試合である。やっぱりなんでもありだ。
「いーくーよー」
イアがにっこりと笑って、ハクのお腹の真横、腕と足のちょうど間をボールで貫いた。
ハクは止めようとしたものの、間に合わず。
「入ったー!」
イアが無邪気にマスターに向かって笑い、マスターも拍手を返した。
これで、両方1対1。
「次は私でございますね」
紫のポニーテールが揺れる。がくこだ。
「おぉ、がくこ」
「よろしくお願いしますわ、がくぽさん」
遠目には、身長と肩幅以外に見分ける方法がない。よく見ると髪止めが違っていたりするのだが、本当にそっくりだ。
「えいっ!」
がくこがのんきに叫ぶ。緊迫感が一気に消え失せた。
「……がくこさん、可愛いかも」
勇馬がぼそりと言うと、ピコが横で吹き出した。
「確かに。あの、無口で大人びた男って感じのがくぽさんとは全然似てない」
「うん。可愛いよね」
しかし、がくこのボールはがくぽがきっちりと止める。
「さすがにそれは入れさせない」
「あらら。負けてしまいました」
どこかのんきな二人の会話に、亜種側もボカロ側も吹き出した。
「ちょ、こっち、こっち、蹴らないと」
マスターが叫ぶと、リンはようやく我に返ったようにボールを地面に置いた。
あっさりと頭を切り替え、無言で足を振り抜く。
ボールはゴールの右下の角に向かって進む。
しかし少しだけ甘かった。その隙をついて、ハクが滑り込んで止めた。
リンが派手に舌打ちする。
「ごめん」
「いいよいいよ。大丈夫」
グミがそう言うと、リンは悔しそうに顔を歪めた。
まだ1対1。
「次は、俺かな」
ネロがボールを地面に置く。
無駄のない動作で、ボールに足をジャストミートさせ左上の角をつく。
ボールはゴールに突き刺さった。
「よし」
「ナイスネロ!」
「どんまいどんまい!次!」
声が飛び交う。
レンは不安げな様子で、ボールを置いた。
「……力押し?」
「ん。派手にやっちゃって」
メイコに言われて、レンは思いっきり足を振り抜いた。
しかしゴールポストに当たって跳ね返る。
2対1。初めて、ボカロ側が劣勢になった。
「ごめん!ほんとごめん!」
レンが頭を下げると、グミとメイコはレンの頭を軽く撫でた。
ついでにリンの頭も。
「……?」
「気にすんな!」
「大丈夫。がくぽさんはそんなに弱くないから」
そう言っている間に、ブロスが出てきて、軽く首を回した。
無言で助走をつけ、ゴールの左下にボールを蹴り込んだ。
そのままボールはゴールに吸い込まれる。
「さっきの仕返しだ」
ふ、とブロスが笑った。
その瞬間、がくぽが超絶不機嫌になったのはみんなも感じ取った。
「グ、グミちゃん、頑張って」
リンが申し訳なさそうな顔でグミに言った。
グミもメイコも、もう外せない。
「大丈夫」
しかしグミはにこっと笑ってリンにピースをし、自分側のベンチにも手を振った。
「見ててねー!」
みんながその様子に呆気にとられると、グミは地面にボールを置いた。
明らかに右端狙いとわかる置き方、立ち方である。
みんなは息を詰めてグミを見守った。
「……馬鹿にしてる?」
右下が苦手なのを自覚しているハクが苛立たしげに言うと、グミはにこっと笑った。
「実力で勝てるとは思っていないもので」
グミは軽く足首を回すと、走り出した。
が、蹴る寸前に体勢と足の踏み込みを変え、一瞬で逆向きに足を振り抜く。
さっきブロスが蹴ったのと全く同じ位置にボールは吸い込まれていった。
完全に右側を警戒していたハクは、呆気にとられた。
これで3対2。
「実力で勝てるとは、思っていないもので」
はっきりと一音一音ハクに向かって発音すると、グミはくるっとブロスの方を向いた。
ブロスが何事かとグミに目を向けると、グミはふわりとブロスに向かって笑った。
「さっきの仕返しですよ」
本当は、がくぽを馬鹿にされて相当頭に来ていたらしい。
がくぽに向かってにっこりと笑うと、がくぽも笑い返した。
ボカロ側から拍手が鳴り響いた。
「ネル!落ち着け!次だ次!」
ネロがネルに向かって叫ぶ。
ネルは、わかっている、という風に頷いた。
「……がくぽさん頑張って……!」
メイコが祈るように両手を前で組んだ。
がくぽの目が急に鋭くなった。
「……入れさせてたまるか」
右上角にまっすぐ飛んでくるネルのボールは、がくぽの手によって跳ね返された。
「……やったぁ……!」
ボカロ側のキッカーがガッツポーズをした。
全てがメイコにかかっている。
「……メイコさん」
「わかってる」
メイコがボールを地面に置いて、一つ深呼吸をした。
ゆっくりと顔を上げ、助走をつける。
1、2、3、4、5歩目で踏み込み。メイコのスタイルである。
足を後ろに振り上げ、足の甲にボールをジャストミートさせる。インステップ。
綺麗に足を振り抜いて、ボールの行く先を見守った。
ボールは綺麗な弧を描き、ゴールの左上角に向かう。
ハクがジャンプし、手を伸ばす。そしてボールに手を触れる。
しかし、指先を掠めたボールは、勢いを弱めること無く、ゴールに吸い込まれていった。
「よ……っしゃあ!」
メイコがガッツポーズした瞬間、ボカロ側は何が起こったかを理解して、飛び跳ねて喜んだ。
「メイコナイス!!!!!!!!」
「よくやった!!!!!!!」
審判の笛が鳴る。
「3対3、引き分け!これから特別ルールのPK戦に入ります!」
一回ごとに交代し、差がついた瞬間に終わり。
特別ルールのPK戦と、この大会で呼ばれているものだ。
このPK戦になった試合は日本大会ではこの試合だけ。
みんなはマスターの周りに集まった。
「どうするか……」
「……俺、下がるよ」
レンがマスターの目を見て言った。
「お前、さっきの気にして……」
「違う違う。俺は威嚇担当でしょ?多分。充分、役目は果たした!ってことで、コントロールの上手い人にバトンタッチかな。」
図星だったらしく、マスターは口を閉ざした。
「……レンを下げる。カイト入れ。グミ、メイコ、イアは残す。リンは……」
「下がります。ハクだったら、少々コントロールでは劣っても力のある勇馬の方がいい」
「……リンとレンを下げて、カイト、グミ、メイコ、イア、勇馬でローテを回そう。順番は……グミ、イア、メイコ、勇馬、カイトで回す」
ミッドフィルダーとディフェンダーで構成されたチーム。
中盤のパス回しのカイトグミはコントロール型、イア勇馬は力押し。
メイコは両方だ。
そして、順番は、はっきり言えば強い順。
メイコが最初に来ないのはさっき蹴ったからだ。
グミはそこまで強くはないが頭脳戦で初めから飛ばしてくれる。
カイトは精神安定剤のようなものだ。PK自体が強いわけじゃないが、コントロール力はあり、みんなをまとめる力もある。
だから順番的にも最後だ。
「よし、行こう」
審判の笛で、カイトがみんなをフィールドに進ませた。
試合は全然動かなかった。
互角だと言われているが、それにしても相当なものである。
再び、こっちが後攻だった。
一ターン目、外したのはイアとカイト。
しかし、対応するネロと帯人のボールもがくぽがきっちり止めていた。
二ターン目、外したのはグミと勇馬。
やはり、ミクオとメイトのボールもがくぽが止めてある。
三ターン目で試合は動いた。
キーパーの疲れもたたってきたのか、ハクもがくぽもそれまで一個も止めていなかったが、がくぽが、帯人のボールを止める。
「キャプテン、頼む」
ゆっくりと、でもはっきりと、がくぽがカイトに向かって言った。
カイト対ハクの、キャプテン同士の対決。
「……わかった」
カイトがにっこりとがくぽに向かって笑った。
至ってリラックスした様子で、でもしっかりと前を見据える。
「行くよ」
カイトの一番得意なボール。
インサイドで、右下にまっすぐ蹴る。
「入れ……入れっ!」
レンがベンチから叫んだ瞬間、ボールはゴールに吸い込まれた。
審判の笛が鳴る。
「VCLDが勝利!」
カイトはにこっと笑ってピースサインをした。
キッカーがカイトに抱きつく。
「キャプテンさすが!」
「カイトナイス!」
そしてがくぽの方にもみんなは走って行った。
「ナイスキーパー!」
「お疲れ様!」
ボカロチームの歓声と拍手は長いこと止まなかった。
そして、帯人とレンカがこっちに混ざっていたのは言うまでもない。
「優勝はVCLD!準優勝、YATB!両チームは、海外大会に出場することになります!」
長い戦いはそうして終わった。
後日談。
「え……援助無し……?」
「あー、うん。経営が苦しくなったんだとさ。ま、やってけるんだから大丈夫じゃね?」
ボカロチームの面々はため息をついた。
「……ま、頑張るか」
リリィが顔を上げてそう言ったとき、みんなはため息をつきながらもにっこり笑った。
「「「「「「「「「「「優勝したんだしね!」」」」」」」」」」」
ボカロ対亜種!サッカー大会<後編>
ようやく終わった~
金欠…うん、今の私の状況である。w
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