『ピーンポーン』
加治屋がそう言うと、またインターフォンがなる。
「またなったね」
ユウカはそう言って立ち上がる。
「先生が何か言い忘れたかもよ」
「じゃあ、ちょっと行って来ますわ」
おれが円香の部屋を出ると、ユウカもついてきた。
「そんなに先生に会いたいのか?」
「いいや。女の子二人に男一人は空気が重くてね」
ユウカはそう言って苦笑いを浮かべ、おれについてくる。
玄関を開けると、そこにはうちの学校と同じ制服の人が立っていた。
「うちの学校の人じゃん」
ユウカがそう言ったので顔を見る。
薄暗くて判りづらいが……。
松江亮だ。
松江亮が驚いたような顔で立っていた。
「何でエノヒロがいるの?」
松江はおれを指差して言う。どうやら状況に頭が追いついていないみたいだ。
「おれは、円香の看病だけど……。なんで松江がいるの?」
「え……。えっとぉ……」
おれが質問を投げかけると松江は顔を真っ赤に染める。
あ、思い出した。
昨日円香、あんなこと言ってたな。
松江は円香に告白したんだっけ?
「はい、歓迎歓迎。入って」
おれは手を叩いて松江を家の中に入れる。
「ユウカ、加治屋をこの部屋に連れてきて」
おれは玄関の横にある和室を指差す。
「え? なんで? まぁいいけど」
ユウカはそう言うと階段を昇って加治屋を呼びに行く。
「松江は上ね」
「え、え、ちょっと……」
松江は少し抵抗していたがその抵抗は無意味で。おれは半ば強引に松江を円香の部屋の前まで連れて行く。
そのときちょうど、加治屋とユウカが出てきた。
加治屋は松江をチラッと見て少し微笑み階段を降りる。
ユウカは状況がわからないようで。「とりあえず加治屋さんを和室に連れて行こうと」いう雰囲気があった。
円香の部屋の前で松江が口を開く。
「か、鹿野君だよね? あれ?」
「ああ。そうだよ」
「大杉さんと仲いいの?」
「まぁまぁかな」
「よく家に来てる?」
「今日が初めて」
おれは松江の背中に手を当てる。そして、部屋のドアノブを少し捻って隙間を開ける。
「ウジウジしてねえで行ってこい」
おれは背中をドンと押し、松江を円香の部屋に入れた。
「ひゃあーーー」
松江の情けない声と円香の驚いた表情を見てドアを閉めた。
うん。完璧。
松江、生きて帰ってこいよ。
円香の部屋の前でそう祈念して階段を降りた。
*
「そうなんだ。松江君告白したんだ!」
「声大きいよ加治屋」
おれは口に人差し指を当ててジェスチャーをする。
おれは和室で質問攻めにあっていた。
なぜ松江がここにいるのか。
なぜ私たちを追い出したのか。
なぜ二人きりにしたのか。
質問攻めと言っても冷静に考えれば三つしかなかった。
「じゃあ、二つ目の質問。なんで追い出したの?」
「松江が思う存分想いを伝えられるように仕立て上げました」
加治屋は積極的に質問を投げかける。
「そっかあ……」
加治屋はそう言うと、頬を両手で隠す。
「松江君ってなんかオドオドしてたね」
ユウカは、売店で買っておいたチョコパンを口に入れる。
「松江は臆病だからな。失敗するのが怖いらしい」
「完璧主義人間だね」
「僕と一緒だ」そう声を上げたのはユウカだった。「こんな僕でも完璧主義なんだよ」
「意外だな」
「うん。知らなかった」
おれと加治屋は阿吽の呼吸で同意した。
「こんな性格だからわかりづらいと思うけど案外色々考えて色々行動してるんだよ」
「「へぇー」」
おれと加治屋は息ぴったりで返事をした。
すると、階段を降りる音が聞こえた。誰かな? と思ってみると松江だった。
「おー。松江。もう帰るのか?」
「うん。おじゃましました」
松江はそう言って家を出た。
「なんかスッキリした表情だったな」
「うん。モヤモヤが取れた感じ?」
「加治屋さんそこまでわかるの? 超能力者じゃん」
「見たらわかるよー。じゃあ、私たちも帰ります」
加治屋はそう言うと立ち上がってバックを持つ。
「じゃあ、僕も帰るよ」
「今日はありがとな。二人とも」
おれはそう言って玄関を開ける。
もう、辺りが暗くなっていた。
「ありゃ。ちょっと話しすぎたね。もう真っ暗だ」
ユウカはそう言って加治屋をみる。
「そうだね……」
「送ってこうか?」
ユウカがそう言うと、加治屋は少し考えてうなずいた。
おれは、羨ましくてか少し頬が膨らんでいた。
いいなぁ。ユウカは。
羨ましい。
「じゃあ、お邪魔しました」
加治屋が家を出て一礼する。
「ちゃんとあなたのお姫様は連れて帰りますね」
ユウカは皮肉った言い方で言ってニヤリと笑う。
「ああ。よろしくおねがいしますねぇ」
おれがだみ声でそう言うとユウカが「やっぱりエノヒロは面白いや」と言って家に背を向ける。
「じゃあねー」と加治屋が言って手を振ってくれたのが今日一の幸運だ。
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