変だ。
ミクさんが変だ。

変といえば、ミクさんが此処に居る事自体が変だけれど、それは棚に上げておく。
作曲を始めてからというものの、ミクさんは、歌う時以外に一言も話さないのだ。

私は今日の出来事を振り返る。

「ミクさん。おはようございます。」
「おはよー。」
「早速ですが、作曲を手伝ってもらえませんか。」
「うん♪」

そして、3時間程度歌ってもらった所だ。
質問したら頷くけれど、歌以外の声は一言も発していない。


「少し休憩しましょうか。」

私は内心不安だったけれど、なるべく普通に声を掛けた。
こくっ。ミクさんが軽く頷いた。

「とりあえず、飲み物を持ってきます。」

冷蔵庫には麦茶しか入っていない。ミクさんのお口に合うだろうか。
そう思いながら冷蔵庫を開けると、見覚えの無い瓶が入っていた。

「これ。ミクさんのですか。」

こくり。ミクさんは頭で返事する。
どうやら、ミクさんが持ってきた飲み物のようだ。

ミクさんに麦茶を飲ませて、さらに問題が起こったら大変だ。
そこで私は、この瓶の中身をコップに注ぎ、コップをミクさんの目の前に置いた。

「どうぞ。」

ミクさんは、両手を使って、こくり、こくりと飲んでいる。

「おかわり。」

あっ。ミクさんが喋った。
私は喜んで、ミクさんのコップに白い液体を注いだ。
ミクさんは、今度は片手で、ごくごくと飲んでいる。

「おかわり。」

私はもう一度、コップに液体を注いだ。

「この飲み物は、何ですか。」
「ミルク。一緒に飲む?」
「いえ、結構です。私はまだ、喉が渇いていませんから。」

ミクさんが持ってきた、謎の飲み物「ミルク」。
彼女が美味しくても、人間にとって美味しい飲み物とは限らない。


ミクさんは、ミルクを3杯飲んで、ようやく満足した表情を浮かべた。
彼女が一息ついた所で、私は、唯一の不安材料について質問してみた。

「そういえば、ミクさんが歌う時には、他の事を話しませんでしたよね。」
「うん。」
「何か理由があるのですか。」
「あのね。」

ミクさんは、長時間歌った直後は、ほとんど声を出さない。
喉を酷使する状況下でも正確に歌う為の、工夫なのだそうだ。
彼女は、何時でも同じ歌い方が出来る事に、誇りを持っている。
そして、今日は調子が良かったと語ってくれた。

良かった。本当に良かった。
とりあえず、ミクさんとの作曲活動は、今まで通り続ける事が出来そうだ。
但し、今の話を聞く限りでは、彼女は体調が悪くても歌い続けてしまうに違いない。
今後、ミクさんに歌ってもらう時は、適時、ミルク休憩を挟む事にしよう。
そして、彼女自身にも、作曲活動を大いに楽しんでもらうのだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

話さないミクさん

「ミクさんの隣」所属作品の1つです。

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投稿日:2011/05/03 06:01:52

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カテゴリ:小説

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