言魂で火や煙を収めつつ上の階を目指した。階段も煙が立ちこめて少し進むのさえままならない状態だった。
「誰かー?誰か居ますかー?」
火の音だけがパチパチと聞こえるだけで返事は無い。となると地下だろうか…?
「アクセス!」
「おわっ?!」
いきなり目の前の壁が吹き飛ばされ、何やら熊帽子の女…いや、『男の娘』が出て来た。
「やーっと出られた!クロアお兄ちゃん!こっちこっち!」
「待てって!こっちはお前みたいな便利機能じゃ…。って、誰だよ?!」
「ん?わぁ?!」
目をぱちくりとさせるとお互いを見合った。
「判った、このお姉ちゃん言魂使だ!きっとヤクルちゃん達とは別棟に閉じ込められて
たんだよ。そんで、火事だから逃げてる所を迷子になって、そこへヒーロー登場!
どうどう?合ってるでしょ?」
「迷子になってたのは俺達だろうが。」
「えぇー?だってしょうがないじゃん!外なんか全然出して貰えなかったし、大体クロア
お兄ちゃんが一階へ降りようって言うから着いて来たのに階段見付からないしさ!」
「…こんな状況で喧嘩出来るお二人はある意味凄いと思うけど避難しませんか?」
「ナイス。」
「賛成!もう服が煤だらけで最悪だよ。」
非常事態に能天気過ぎるだろ!と拳でツッコミたい所だったが火が危ないので一旦消火の終わった玄関ホールを目指して三人で移動する事にした。道中で拓音ヤクル、と名乗った熊帽子の男の娘が聞くも聞かずも色々と話してくれた。
「えぇ?じゃあ流船はお兄ちゃん?!お姉ちゃんかと思ったよ!」
「よく言われる…。で、えーと、クロアさん。」
「薄ら寒っ!クロアで良い。凱瑠クロアだ。」
「彼女の鈴々さん此処からを逃がしたの貴方ですか。お陰で助かりました。」
「バッ…?!おま…!彼女じゃねぇ!鈴々は何つーか、幼馴染で、行き付けの店の子で、
そんで料理とか上手くて…。」
「ああ、告白待ちですか、ご馳走様です。そう言うケースって意外と横からホイホイ持って
かれるんですよね、いきなり出て来た馬鹿王子とかに。」
「あははは!馬鹿王子!でも聖螺お姉ちゃんみたいだよね、王子様ってさ。」
不意に出て来た聖螺の名前に驚きつつ聞き返す。
「聖螺を見たのか?」
「え?知り合い?じゃあ流船が王子様?」
「いや、こんなんじゃなかったよ、もっとキザッちい優男。」
「こんなんって言うな…。」
不謹慎に和みつつ歩いていた時だった。玄関ホールにポツンと佇む人影が見えた。何かブツブツと言いながら手には青白い銃を持っていた。
「だ…誰?あれ…?」
「大丈夫か?早く避難を…。」
「…先輩を治さなきゃ先輩を治さなきゃ、私のせいで先輩は泣いてるの、足が痛いって
泣いてるの、あの人は助けてくれるって約束した、治せるって言ってくれた、二人は
要らない、二人は要らない、一人だけ連れて帰れば良い、裏切り者は要らない、裏切り者は
要らない…。」
「―――っ!!」
思わず息を呑んだ。目の前に墨でもぶちまけられたかと思う程、真っ黒な翼が広がった。そしてあまりにも対照的に不釣合いな程無邪気な笑顔で彼女は言った。
「二人を殺して貴方を連れて帰れば芙花先輩は元気になるの。」
「お前…イコ…?!」
悪夢を見ていると思いたかった。
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