純は何も言わなかった。ただじっと私を見ていた。不安になってもう一度問い質す。

「貴方…純だよね?」
「…………………。」

違うのかな?でも、前にクロアさんや鈴々さんやヤクル君が言ってたのと一致してるし何と無く勘と言うか…。

「失礼、不法侵入なんで。」
「あっ…!」
「合ってるよ、僕は純、琴音純だ。」

純は少し寂しそうに笑うと、テラスからひらりと飛び降りてしまった。ぽかんとテラスの方を見ていると、バスローブが羽織る様に掛けられた。

「…ごめん…。」
「え?あ…。」

頼流さんは私の肩を掴んで、だけど顔は伏せたままゆっくりと続けた。

「どうかしてた…本当にごめん…。」
「頼流さん…さっき、流船って…。」
「うん…覚えてる。君の言う通り、この前迄流船は此処に居た。16歳で、高校通ってて、
 巫女カフェでバイトしてて…。」
「はい…。」

肩を掴む両手にぎゅうっと力がこもった。少し肩を震わせて、床にポツリポツリと涙が落ちるのが判った。

「優しくて…家族…思いで…誰よりも皆を守ろうとして…最近は君の事ばっかり話して…
 あの時も…時計台に…行くって…!元…気で…!」
「はい…。」
「…っ船は…流船は…!流船は確かに此処に生きてたよな…?そうだよな?芽結…?」
「はい…!」

その涙を止める事なんか出来なかった。ねぇ流船…頼流さんが泣いてるよ?流船の大事な家族が泣いてるよ?どうして居なくなっちゃったの?どうして10年前に死んだ事になっちゃったの?誰が流船を消しちゃったの?誰が泣かせてるの?ねぇ、一緒に居てくれるんじゃなかったの?時計台で待ち合わせしてたんだよ?会いたいよ…寂しいよ…涙が止まらないよ…流船じゃなきゃ涙が止まらないよ。

「…流船を取り戻そう…。」
「え…?」
「さっき俺に撃った『終幕』のお陰で色々と思い出した。…流船は殺されたんだ。
 『脚本』の中で…。」
「『脚本』…?じゃあ…流船が死ぬのは決められてたって事ですか?!」
「いや…『今回は流船』だっただけだ。何回、何十回と『脚本』が皆を動かしてる。」

今回?何十回?どう言う事?そんなまるで…やり直してるみたいな…。…やり直す…?

「まさか…私達同じ事を繰り返して…?」
「…ああ。俺達は知らない内に演じさせられてるんだよ。誰かが作った『脚本』を
 何度も何度も巻き戻すみたいにな。」

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-64.確かに此処に生きてた-

コトダマシ、言魂使、事騙し…

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投稿日:2010/12/05 03:09:12

文字数:992文字

カテゴリ:小説

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