『―――聖螺!!!』

凄い音と悲鳴の中、あの人の声が聞こえた気がした。それからどうなったのか良く判らない。目が覚めた時はまだ暗い病室のベッドの上だった。そっか、私、階段から落ちちゃったんだっけ…。

「ん…。」
「えっ?!」
「…気が付いたのか…良かった…。」
「王子さ…!あ…ゼ、ゼロさん、どうして…?」
「どうしてって…心配で…。」

びっくりしたのと嬉しいのとで心臓が飛び出しそうだった。時計はまだ朝の五時過ぎ、もしかしてずっと付いててくれたのかな…?

「あ、あの…!怪我は?!何処も怪我してませんか?!」
「大丈夫…俺は何処も…。」
「良かった…。」
「…くないだろ…。」
「え?」
「良くないだろ…!何であんな…俺なんか庇って、こんな怪我して…!ちっとも良く
 なんかないだろ!」

強い口調に思わず体が強張った。怒ってる…よね?勝手な事して、迷惑掛けて、そうだよね…。

「ごめんなさい…。」
「え?」
「迷惑掛けてごめんなさい…!」
「…迷惑って…そんな…そうじゃなくて…!何で…!何で俺庇ったりなんか…!」

一瞬泣いてるのかと思った。凄く辛そう…違う…違うの、そんな顔させたかったんじゃない…!違うの…!私は…私が願ったのは…!

「傷付くのが嫌だったんです…。」
「え…?」
「あの時夢中で逃げてて…恐くて何も判らなくて…そしたら階段から落ちそうになってる
 のが見えて…!落ちたら死んじゃうんじゃないかって思って…!…貴方が傷付くのが嫌
 だったんです…!」
「…聖…。」

辛い顔じゃない、自分を責める顔じゃない。

「帰って下さい…この怪我は貴方のせいなんかじゃない…貴方がそんな顔する必要
 無いんです。」
「だけど…!」

ただ貴方の笑顔だけ…だから…。

「王子様ごっこはもうお終いです…わざわざ…ありがとうございました…。」
「…っ!」

これで良いの…。私に背を向けて、私から離れて行ってくれれば良い。私のせいで貴方を責めさせたりしない、絶対傷付けさせたりもしない、そんなの許さない、私自身でも許さない。だからもう二度と、貴方に会わない、貴方を探さない、貴方を想わない。

「…じ様…王子様…王…っ!」

だけど貴方を忘れない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-20.ただ貴方の笑顔だけ-

だから私を忘れて下さい

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投稿日:2010/10/17 14:03:44

文字数:934文字

カテゴリ:小説

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