!!!Attention!!!
これは「人柱アリス」の勝手すぎる設定の解釈小説です。
主人公、名前出てきません。
VOCALOIDたちが不思議の国のアリスの登場人物になっています(第一章に関して言えば、VOCALOID出てきません。見方によってはいるんですが)。
海外組もそのうち出てきますが、ほぼオリキャラみたいな扱いです(ノット外国語)。
常にシリアス展開です。

以上のことを許せる方は本編へどうぞ!










   第一章 さがしものや





 ある特別な条件を満たした人だけが入れる雑貨屋がある。
 そこには様々な雑貨が置かれていて……それだというのに、そこの主人は客の探しものを見つけることを生業としていた。
 同時にその主人にも探しもがあるのだが、わけあって店の外へは出られない。雑貨屋の主人は、報酬として客から情報をもらい、自らの探しているものを見つけ出そうとするのである。





「あ、これって『さがしものや』じゃん?」
 読んでいた本の表紙を確認した彼女はそう言ってにこりと笑った。
 続きを読まなくても何となく結末がわかって、まだ物語の中盤にも差し掛かっていないと言うのに読む気が半ば失せていた私は、彼女の声によって更に集中力を切らしてしまい、しおりも挿まずに本を閉じる。この本は少しばかりこの学校では有名だけれど、思ったほどのものではなかった。尤も、私が興味を持ったのはこの本というより、この本の噂と現実に起こっている事の方なのだけれど。
 私が本を鞄にしまうと、目の前にいた彼女は呆れたようにため息をついた。
「相変わらず無関心だねえ……面白くなかった?」
「私には合わなかったみたい」
 興味がないという素振りで立ち上がる私に、また彼女はため息をつく。それこそ、もうその反応は見飽きたとでも言うように。いや、実際見飽きているはずだ。
 彼女は、何に対してもあまり興味を示さない私を心配してくれる、数少ない友人の一人。正直なところ、私のような変わった人間とよく平気な顔をして付き合っていられるな、と思う。自分でもそう思うのに、何故だか彼女はいつでも私の傍にいた。
 そんな優しい彼女に別れを告げるでもなく、他のクラスメイトたちの流れに身を任せて廊下へ向かいかけた時、「ねえ」と鼓膜を彼女の声が揺さぶった。
 振り返ると、にこりと笑っている彼女。
「1ついいこと教えてあげる」
 私の足が止まったことに口元を緩めた彼女は、人差し指を天井に向けて立て、顔の前に突き出してみせた。その動作で、何を言おうとしているのかを理解する。
 彼女は情報屋並みにたくさんの情報を持っていて、相手が求めているだろう情報を話す時、決まって人差し指を顔の前で立てるのだ。今回も、その例にもれなかった。
「見えないアンティークショップ絡みで、行方不明者が十数年ぶりに出たみたいだよ」
 隣町の双子だって、と事も無げ――と言うより寧ろ楽しそう――に告げる彼女の口調とは裏腹に、教室に残っていた数名が、盗み聞きせずとも聞こえてしまったその言葉にどよめく。
 見えないアンティークショップというのは、鞄の中にしまった本、『さがしものや』の舞台になっている雑貨屋のように、ある条件を満たしている人間にしか見えないという店のことだ。噂では、実際にそれを見たことのある人間が、『さがしものや』を執筆したのではないかという話もある。しかし、『さがしものや』の中のアンティークショップと一緒なのは、ある条件を満たしている人間にしか見えない店だということのみで、実際のアンティークショップを見た者は姿を消すとも言われている。
 噂としては、そんなものだ。酷く曖昧で、頼りない(だから噂なのだろうけど)。
 そもそも、私もその噂や事件に関しては興味があるけれど、耳に入ってくる情報全てを信じているわけではない。明らかな矛盾がある。その店を見た者が姿を消すならば、こんな噂は広がらないからだ。誰かが作った話に尾ひれがついたと考えるべきだろう。噂とはそういうものだ。
 しかしながら、その噂関連で本当に行方不明者が出たとは一体どういうことなのだろうか。誰かがおもしろがって、別件――例えば誘拐事件とか――で行方不明になった人のことを、その噂と繋げたのだろうか。それとも、あんな矛盾のある噂が真実なのか。
 ――ああ、何ておもしろい。
 口元が緩むのをおさえられないまま礼も言わず、そのまま彼女に背を向けて教室を出た。





 昨日あんなことがあったからだろうか。それとも日頃の行いの賜物か。いや、そもそもこの状況を喜んでいいのか悪いのか。
 目を一度閉じてから開いても、頬を思いっきり抓っても、まぎれもなく目前に在るものに、私は足を止めてどうしたものかと顎に手をあてた。
 いつもと変わったことなど何一つなかった。変わった行動をとった覚えもない。むしろいつも通りすぎるほどいつも通りだった。同じ時間帯に家を出て、同じ道を通って学校へ行くはずだったのに、目の前に在るこれは一体何だろうか。
 否、答えは私の中でもう出ている。
「……次は私かしら?」
 辺りを見回せば、毎日見ているはずの景色があるというのに、その中心にあるもののせいで、全く知らない景色のように映る。
 異常と感じる原因は、一見すると、ただのログハウス。大きな窓から見える陳列棚の上には、様々な雑貨――そう、おそらくこれが、ある条件を満たしている人間にしか見えないという、例のアンティークショップなのだろう。
 行方不明者が出ると噂の、普通の人間には見えないはずのアンティークショップ。知らず知らずのうちに、どうやら私はそれを『見ることができる人間』になっていたらしい。まさか本当に今まで『見えなかった』とは思わなかったけれど、ずっとここにあったのだとしたら……まさしく今まで『見えなかった』のだ。そうとしか思えない。
 ここで普通なら戦慄するところなのかもしれないと思いながらも、私は高鳴る鼓動を抑えられない。これは、まぎれもなく高揚感だ(いや、やっぱり戦慄なのかもしれない。だって鳥肌がたっている)。
 何ておもしろいのだろう。ここに入ったら、二度と出られなくなるのだろうか。今までの行方不明者は私と同じようなことを考えながらこの店に入ったのだろうか。そしてそのまま消えたと言うなら、一体どこへ消えたのだろう。剥製やマネキンとなってアンティークショップに飾られているのだろうか。
 私の足は自然とアンティークショップの玄関へ近付き、口元が綻ぶのを止められないまま、ドアノブに手を伸ばしていた。
 体中を支配している高揚感とは別のこの感覚は何だろう。もしかして、人はこれを狂気と名付けたのだろうか。
 キィ、と鳴く古い扉。中には時計や小物入れや絨毯や……様々なものがあって、それらが私を迎えてくれた。地獄絵図を想像していた私は、出鼻をくじかれた気持ちで少しばかり肩を落とす。もちろん、想像していたような行方不明者とおぼしき人たちの剥製などあるわけもない。普通すぎるぐらい普通の店だった。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
 聞き覚えのある穏やかなその声に、思わず勢いよく振り返った。
 ――ああ、何てこと。
 藤色の長い髪を靡かせてどこからともなく現れたこの店の主と思しきその人物は、私が思い描いていた『さがしものや』の主人公である、雑貨屋の店主と相違なかった。姿どころか、声まで想像していた通りとは、一体どういうことだろう。
 あの『さがしものや』は噂に違わず、この店を元に作ったものだと、そういうことだろうか。それならば、作者はやはりこの店をよく知るもので……例えば、この店主とか――。
「……私の顔に何かついていますか?」
 その言葉で、店主の顔を失礼なほどじっと見つめていたことに気付いて、「いえ」と視線を陳列棚へと向けた。やはり、特に何か変わったものが並べてあるということはないように見える。噂は噂の域を出ないのだろうか。
「あの、一つお聞きしてもよろしいですか?」
 私の声に、棚に置いた品物に視線を向けていた店主は、「私が答えられることでしたら」とやわらかな笑顔を向けてくれた。
 今は優しそうな店主だけれど、この店主が実は人攫いで――というのも考えられない話ではない。殺人事件や誘拐事件の犯人というのは、大抵が捕まってから『あんな酷いことをする人じゃなかった』と言われるものなのだ(と、私は思っている)。
 もしそうだとしたら、次の私の質問を聞けば、この店主は豹変するのだろう。これまで何人もの人を攫った誘拐犯に変わるはずだ。
 そんなことを冷静に考えて、しかもそれをどこかで楽しんでいる辺り、私はやはり異常なのかもしれない。
のんびりと椅子に腰掛ける店主を見ながら、私は目を細めた。
「行方不明になった隣町の双子について、何かご存知なのでは?」
 吐き出した言葉が響くと、店主の眉がぴくりと動いた。その僅かな変化を、私は見逃さなかった。
 これは何かあると直感が語る。決して探偵ごっこがしたいわけではないが、こういう大人が慌てふためくところを見るのは楽しい。我ながら悪趣味だと思うけれど。
 店主の僅かな反応も逃さないように更に注意しながら、その口が返事を紡ぐのを待つ。時計があるにも関わらず、店内は無音の世界のようだった。ちらっと視線を時計の方へと向けてみれば、その肝心の時計は止まっているらしい。なるほど、音がしないわけだ。
「――お嬢さん、さがしモノがないならここへきてはいけませんよ」
 次の言葉で質問に対する答えがもらえると思っていた私は、店主のその言葉に首を傾げるしかなかった。意図を測りかねてその表情をじっと見つめてみるも、店主は何の感情も浮かべてはいない。
 人の表情を見て悪寒が走ったのは初めてだった。それはまるで、妖怪や幽霊という類の、見えない何かに対する恐怖と類似している気がした。
「ここは狭間。求めるモノがないモノが在ると、もう一方の世界に取り込まれてしまいます」
 思わず思考が停止するところだった。あまりにも真剣な表情でそんなことを言うものだから、それが冗談だとは見抜けなかったのだ。まさか真剣な表情のままでこんな冗談を言う人だとは思わなかった。
 口からこぼれたのは、失笑。子どもをたしなめるにしても、もう少し良い言い方があるだろうに。呆れた調子のまま言い返してやろうと口を開いたけれど、店主の言葉の方が僅かに早かった。
「あなたが求めたのは『異質な現実』。願いが強すぎてここへきてしまったのでしょうが、ここにはあなたの求めたものはありません。どうぞお帰りください」
 何を言っているの、という言葉が出るより、視界に天井が映る方が早かった。
 何故天井なんて見つめているのだろう。真剣な調子で語っていた店主が何か技をかけてきたのだろうか。それとも、無臭の神経系を麻痺させる薬か睡眠薬か……そんな怪しげな薬品を使ったのだろうか。
 視界に映るのは、激しく明滅する回転灯のように目まぐるしく変わる世界。反転して暗転。
「いけないっ、お嬢さん! ――――、――――――ッ!」
 慌てた店主の声が、私を呼ぶ。何かを訴えているようだったけど、最後までは聞こえない。その時何が起こったのか、意識を失うまで思考を休ませることなく答えを探し続けても、結局はわからなかった。
 ああ、だけど……誰の声だったかわからないけれど、最後に耳に届いたその声だけは、はっきりと覚えている。

 ――正しい道を選ばなければ元の世界には戻れない。





ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【独自解釈】Alice’s Nightmare【人柱アリス】 1

久しぶりすぎて我を見失っています、+KKです。
ピアプロに顔出すのいつぶりだよ……もう思い出すのも怖い。
そして、独自解釈すぎて何ていうか、ごめんなさいorz
URLは畏れ多くて載せられませんが、「人柱アリス」、すごい曲です。
これから主人公さんは例の世界に飛ぶようです。
時間がかかるかもしれませんが、最後まで楽しんで書けるようにしたい、な……。
お付き合いいただける方がいらっしゃいましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

閲覧数:310

投稿日:2012/06/04 00:05:06

文字数:4,776文字

カテゴリ:小説

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