大好きな父からもらった、その重いポラロイドカメラは
僕の瞳に写したものを全て、色鮮やかに現像してくれた。

シャッターを切るあの瞬間、僕の記憶の引き出しに一枚の絵として収納される。
その光景が全て、僕の一部になっていた

でもある時、気づいたんだ。
僕は僕を見ていることを。
地平線に沈む橙色の太陽も、暗闇に青白く輝く満月も、
大きな手で優しく撫でてくれた、あの父の手も
全部全部、僕の中に写ってしまった。

「好きなものを残しなさい」
記憶は不安定だからと、父は僕に形になるものをくれたのに。
あの時庭にあった向日葵がずっと僕を見下ろしているのを、知りたくなくて 知ろうとしなくて、
僕はまた、滲む視界を誤魔化すようにファインダーを覗いた。

世界が全て現像された時、僕は何もない世界にただ一人残された。
最後のポラロイド、真っ白な世界は何も写らない。
あんなに綺麗だった景色もいつしか空っぽになっていて。
僕は僕に問う、「笑顔はどこに置いてきた?」

ああ、被写体は最初から決まっていたんだ。
僕はレンズを向けて 忘れていた色を写し出す。
それは鮮やかに僕の知らないところで、
一枚の小さな世界が、出来上がるのを待っていた。

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  • 非営利目的に限ります
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shutter

写真を撮ることが好きな少年が、最後に何を写したのか。

閲覧数:122

投稿日:2014/05/28 19:12:15

文字数:514文字

カテゴリ:歌詞

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