「ゴメン叔父さん、ちょっと匿って!!」
工房に駆け込み、適当な機材の陰に身を隠す。
とりあえず、今は冷却期間が必要な気がひしひしとしていた。
むしろ、冷却期間を置かないで顔を合わせたときが恐ろしい。
「・・・凛歌、そんなに慌ててどうした?」
叔父さんの言葉に、深い沈黙。
ゆっくりと、重い唇を開く。
「帯人に、隠しといた乙女ゲーを、見られた。しかも全部コンプ済み。」
「っちゃー・・・。」
予想通りの反応をどうも。
天を仰いだ叔父さんが、こちらに向き直った。
「で、見つかったのはどれだ?」
「ハ○アリとクロ○リ・・・それから緋色と蒼黒。」
「全部じゃねぇかよ!!」
はい、素晴らしいまでの的確なツッコミをありがとう。
「前に、き○めが、見たときは何にも言わなかったんだけどなぁ・・・。」
部屋に戻って、起動しっぱなしのパソコンとプレステ2に繋いだTVを前にしてアイスピック片手に、にっこり笑う帯人が非ッ常に・・・いや、なによりも恐ろしかった。
『凛歌・・・これは、なに?』
・・・・・・浮気が妻にバレた夫の気分がよくわかった。
全国の浮気夫の皆様、『間抜けすぎるお前らに乾杯』とか笑ってごめんなさい。
涼が後ろで笑ってたから、多分奴の仕業だ。
帰ったらシメとこう。
「ってか、お前人間嫌いだろ。・・・前々から聞きたかったんだが、なんでンなモン持ってたんだよ?」
もっともな質問である。
誤解されたままだと後々面倒だし、帯人への交渉役になってもらうのにも都合がよさそうなので説明しない理由はなかった。
「・・・小説。」
「あん?」
「小説、書こうと思ってたんだけどさ、私、人間嫌いのせいでマトモな人間の感情・・・特に、恋愛感情にとんと疎くて。それで、学習用に購入したんだけど、コンプして続編を購入しても、理解できなかった。・・・・・・思い余ってBLまで買ってみたけど、それでも駄目だったな。」
「・・・・・・きち○が、か。それであんなモンまで。」
「結局さ、そういう事を教えてくれたのも、帯人だったんだよね。あれは、まあ、処分するのが面倒でそのままにしてあっただけでさ。別に捨ててほしいならすぐ捨てるし。・・・ただ、帯人が誤解したまま、すっごいイイ笑顔でにじり寄ってきたから、思わず逃げ出しちゃって。」
あぁ、きまり悪い。
暫しの間、何事か考え込んでいた叔父さんが、工房の奥の方を振り向いた。
「だとよ、帯人。良かったなーぁ。」
ひきり、と顔面が引きつる。
工房の奥から、アリスとクロックに連れられた帯人が出てきた。
思わず退路を確認するが、そこは既に叔父さんによって塞がれている。
帯人の手元を確認、とりあえず、アイスピックは握られていない。
「凛歌・・・。」
がしり、と両肩を拘束される。
素敵にイイ笑顔が恐ろしい。
そのまま、ひょいと抱えあげられた。
「僕が来る前に購入したやつらしいから、なにも言わないけど・・・帰ったら、とりあえず話し合いね。あと、あれ全部捨てて。いや、破壊して。」
とりあえず、話し合いが、ただの話し合いで終わることを痛切に願った。
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