耳に何やら忙しない音が聞こえて来た。

「なぁ、何かこの子芽結抱っこしてるんだけど…。」
「別に良いんじゃない?女の子同士だし。可愛いし。」

聞き覚えの無い声にパチッっと目を開けた。全く知らない部屋に瞬きを繰り返す事しか出来なかった。あれ?夢?と言うか俺さっき撃たれた様な…じゃあ俺死んだとか?その割には随分抱き心地の良い枕が…。周りには白衣を着た奴から、作業着みたいな奴までさわさわと動いていた。一体何処なんだろう?と、目の前にひょこりと女の子が顔を覗き込んだ。状況が飲み込めないまま一先ず体を起こす。

「気分はどう?痛い所とか無い?」
「えっと…はい…。」

少しずつはっきりした頭でさっきまで抱いていた枕を見た。

「…女の子?!」
「ごめんねー、急だったから一個のベッドに放り込んじゃって。女の子同士だし
 構わないかなーと思って…。」

つまり俺はずーっとこの女の子を枕代わりに抱き締めて眠っていた、と…。俺としては構わないがこの場合彼女は事情が違って来るんじゃないだろうか?と言うか確認しろよ、と。

「男なんですけど…。」
「でも今ちょっと施設移転でバタ付いててあちこちで部屋とか…ん?今何て?」
「だから、俺は男です。」
「あははははは…って嘘でしょ?!」
「正真正銘生まれ付きの男ですよ。」
「…と、取り敢えず、ちょっとそこ退きなさい。別の部屋用…。」
「鳴音さん…。」
「あ、あら、芽結ちゃん…お、起きたの?」
「今の…本当ですか?この子…男だって…。」
「えーっとね、ちょっとした手違い!手違いよ!ね?私達すっかり女の子だと
 思い込んでて…。」

芽結と呼ばれたその子は俯いたままふるふると震えていた。手違いとは言え野郎に抱き枕にされてたなんてショックだったんだろうか。謝った方が良さそうだな。

「あの…ごめんなさい…。俺もよく女に間違われるんで…。」
「可愛い~~~~っ!!!」
「わぁっ?!」
「ヤダヤダ、もう!何この子!女の子だと思ってたから諦めてたのに嬉し~い!
 ねぇねぇ、鳴音さん、この子適合者なら私が貰って良いでしょう?幾徒様は頻繁に
 動けないし、私むっさいの苦手だし、でもこの子だったら全然OK!」
「ちょ…離せ!いきなり何なんだよ?!勝手に決めるな!大体何で俺がお前の希望
 聞かなきゃならないんだよ?!」
「む、じゃあ誰の言う事なら聞くの?彼女?」
「居ないけど…初対面で貰われる言われは無いっ!」
「む~!コトダマ!『蕕音流船』『発生』『親愛』『服従』『一目惚れ』ロード!」

あれ?何このデジャヴ…この銃口何ですか?と言うかさっき不穏な単語の数々が聞こえたんですけど?『親愛』は兎も角『服従』って何だ?!『服従』って!!

「ちょっ…待…!」
「アクセス!」

思わず目を瞑った。だけどガラスが割れる様な大きな音も、眩しい光も無かった。

「ねぇ、蕕音流船君。こっち見て?」
「うっ…?!あ…何…お前…何をし…?!さ、触るな!やめ…!」
「協力してくれるよね?流船君。」
「……っ!」

さっきまで何とも無かったのに、彼女の一挙一動から目が離せない。触れられた所から火でも点いた様にカーッと熱が広まって、心臓は走った後より早い位ドキドキしていた。『親愛』に『一目惚れ』って…こう言う事かよ?!クソッ…こんなん無しだろ…!ヤバイ…クラクラして来た。

「お返事は?」
「は、はい…!」

嬉しそうな彼女の笑顔に、複雑な思いと息が止まる程の高鳴りが押し寄せた。無論、嫌な予感と共に…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-5.お返事は?-

返事は「ハイ!」

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投稿日:2010/10/10 06:29:08

文字数:1,468文字

カテゴリ:小説

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