いつもは眠れるのに何故かふと目が覚めた。真夜中で外は暗い、どうしてだろう?何か静か過ぎる様な気がした。散歩でもしたら眠くなるかも知れないし…。
「少しなら大丈夫…だよね。」
夜景の見えるエレベーターホールまで来た所で窓際のソファに座った。流石に起きている人なんて居ない。自販機で買ったココアをゆっくり口に運ぶと、柔らかい甘みが体を温めた。
「眠れないの?」
「っ!…禊音さん…。」
「脅かしちゃった?」
「いえ…。」
「隣、良いかな?」
「どうぞ…。」
禊音さんは隣に座ると体を反らす様に伸びをした。実はあまりこの人と話した事が無くて、少し緊張していた。それが顔に出ていたんだろうか、見透かす様な目でこっちを見ると少し笑って言った。
「芽結ちゃんはどうして此処に居るの?」
「え?あ…目が覚めちゃって…。」
「ああ、違う違う、そうじゃなくって。芽結ちゃんみたいな女の子がどうして【Wieland】に
居るのかなって。」
「えっと…それは私が適合者だから…。」
「恐くないの?文字化けとか、聖螺ちゃんを誘拐する様な奴と戦うなんてさ。」
どうして此処に。そんな事を聞かれるとは思ってなかったので言葉が上手く出て来なかった。ネコのリュックを拾った日、幾徒さんに会った。色々言っていたけど正直難しくてその時の説明は覚えてない。ただ私が『適合者だ』と言われた。それから少し経って、文字化けに襲われて、お母さんは目を覚まさなくなった。
「恐いです…でも…頑張ればお母さん元気になる様な気がして…。」
「そっか。」
目が覚めないお母さんを見るのが辛くて言魂を撃った。だけどお母さんは益々苦しんだ。その時私は言魂が万能では無い事を、何でも出来る訳じゃない事を、身に刻む様に初めて理解した。それと同時に、何も出来ない自分が悲しかった。
「ねぇ、もし君がさ…。」
「芽結!先輩!」
「幾徒さん?」
「聖螺の居場所が判った。」
「本当ですか?!」
「ああ、適合者の一人が内側から人を逃がしたらしい、聖螺もそこに居る。準備が整い次第
適合者達を救出する。」
「判りました。」
少し息を切らした幾徒さんはまた廊下を走って客室棟側へと走って行った。
「逃がした…?」
「え?」
「いや、何でもないよ。」
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