足元が一瞬無くなる様な感覚の後、爪先が地面をトンと捉えた。
「座標確認中、そちらに異常は?」
「大丈夫だ。」
インカムから少しノイズ交じりの声が聞こえた。これが10年後と繋がっているなんて正直未だに実感が沸かない。頼流は幾つか確認を終えるとスタスタと歩き出した。歩くと言うよりは小走りに近い。
「ちょっ…待てって、場所とか判るのかよ?それに…わぶっ?!…急に止まるなよ…。」
「忘れると思うか?」
「え…?」
「忘れられると思うか…?」
頼流は笑っていたけど、泣いてるみたいだった。ふと、以前にレイが言っていた事を思い出す。いつも常に何かを隠してるみたいな頼流が、正直信用出来なかったし、今も信頼してないのかも知れない。だから俺はレイに聞いた、『本当にあいつで良いのか?』って。
「確かにあんた倒れそうだよな。」
「は?」
「レイが言ってた。『頼流は放っといたら倒れちゃう』って。何と無く判る。」
誰にも頼らない、誰も信じない、何処にも、何にも寄りかかろうとしない。そんな人間は強い様で脆い。出来ていると思ったって周りから見たら止まりかけた独楽みたいにぐらぐら危なっかしい事もある。多分きっとそんな感じ。だからホラ…反論出来てない。
「…ぇえええぇん…!うぁぁああぁん…!」
「ん?」
「子供…?」
言葉が消えた俺達の耳に子供の泣き声が聞こえた。流船だろうかとも思ってキョロキョロと辺りを見回したがそれらしい影は無く、泣き声のする方へ歩いた。
「おかぁさーん…!おかぁさぁああん!うぇっ…!えぇええええぇぇん!おかぁさああぁん…!」
「あ、居た。」
泣き声の主は女の子だった。降りられないのか木の上で枝に張り付いて大泣きしている。大人が手を伸ばせばどうと言う事はない高さだけど、子供には恐いんだろうか…。
「あれって助けて良いのか?」
「まぁ多分大丈夫だろ…どっかのお姫様とかでもないだろうし。」
「おかぁさ…!おかぁさああ~…!えっ…えっ…うぇっ…!」
「よっ…と。よーしよし、もう大丈夫。」
「ひっく…ひっく…。…スワンさま…?」
「へぁ?」
「わぁ!スワンさまだぁ!たすけにきてくれたの?ありがとう!」
大泣きしていた女の子が目を輝かせて言った。スワン様って誰だ?!と言うか何て答えれば良いんだ?!いきなり否定したら絶対泣き出しそうな気がするし、かと言ってスワン様ってのも意味不明…。視界の端に必死で笑いを堪える頼流が見える。いや、笑ってないで何とかしてくれ。
「えっと…き、気を付けるんだよ?お嬢ちゃん。」
「はい!スワンさま!」
「じゃ、じゃあね…。」
「ねぇねぇ、スワンさま。」
「な、何かな~?」
「パールひめみたいにかわいくなったら、スワンさままたあいにきてくれる?」
パール姫って誰?!大方アニメか何かだろうか…?と言う事はこの子俺をアニメキャラか何かと間違えてる?ツッコミ所満載だが子供の夢をぶち壊すのも可哀想だな。
「大きくなったらね。」
「…うん!せーらがんばる!じゃあねスワンさま!」
満面の笑みで女の子は走って行ったが、俺は呆然としていた。
「…せーら…?」
「ぶくっ…!くくくっ…げふっ!えほっ…!ぶははははははは!!!スワン様!やべぇ涙出る!
あははははははははは!!痛っ!何する?!蹴るな!スワン様!」
三つ子の魂百まで…笑いむせる頼流に蹴りを入れながらそんな諺が頭を過ぎった。
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