[森には梟]
「ここでの暮らしにも慣れたつもり」と
文を書く指がしばし躊躇う
鏡の向こうの私を見れば分かる
軋轢に擦れてしまっただけだと
思った通りには行かない中で
優しいあの子の変わらぬ笑顔は
かえって私をみじめに思わせた
ガラクタをまとめ鞄に詰め込んだ
故郷へ帰りたい 海の見える故郷へ
この街は私には 眩しすぎたのだから
石道も途切れた時 足取りが止まった
木々の間は こんなに暗かったろうか?
森には梟 夜を纏う鳥たち
銀の眼の星空が宵闇を埋めていた
森には梟 闇に潜む鳥たち
立ち竦む私に 嘴が語る
「夜がこの森を」「越えることは適わない」
かつて来たときは 真昼の森だった
希望に溢れた私の眼には
木々も虫たちも鮮やかに映った
それからの事はまた別のお話
何があの森を変えてしまったのだろう
沈む私に あの子が今日も語る
「何か悩み事?」「逃げ出したくなる事?」
「わかるよ私も」「いつも逃げ出したいんだ」
知ったような事ばかり 何も知らない癖に
薄暗い閃きが頭を吹き抜けた
彼女の眼を見た 白い手を取った
彼女は驚き 少しだけ目を伏せた
足音ふたつ 街を抜ける
陽の行く前にと息を切らす
だけども森はやはり夜のままで
だけど私は知っている
太陽の光がここにある
「夜は彼女の」「傍には居られない」
賢明なる梟は 悲観の影だろうか
陰と陽の末路を 案じたのだろうか
森には梟 明けを疎む鳥たち
銀の瞳を僅か瞬かす
舞い上がる星が 瞬間 世界を隠して
それからは月だけが 宵空に残っていた
どれだけの時か 二人は黙っていた
木々の向こうから 朝焼けが覗くまで
走り出したあなたが 私の手を引いていたことに
私が気付くころには 夜はもう明けていた
何処へ行けばいいのかも 手に伝う熱の由来も
夜はもう教えてくれない
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