『ぐりこ』 その1
作・四方山 噺(のんす)
1
「デ~~~トぉぉおぉぉぉ!? アンタが!?」
発端はとても単純だった。誘われて、そして頷いた。ただそれだけ。でも、
「い~や、ありえないっしょ。っていうか相手誰よ? どこ中?」
始まりがいかに単純でも、それを受け止める私の内心は、全くもって平静でも平穏でもない。
思うに、キャラメルみたいなものなのだ。砂糖と牛乳、突き詰めればそれだけで作られているくせに、甘かったり、苦かったり、硬かったり、柔らかかったり、
「…は? もっかい言ってみ?先輩? って、あの、去年の男バスキャプテンの? 今は西学通ってる?」
時に、胸を焼く狂おしいほどの風味に胃と肺がやられて、噎せるついでに、ついつい一緒に吐きだしてはならない思いを、
「いやいやいやいや、ありえないって! C組のナオが数学のサコティーと付き合ってるくらいありえない。 お受験控えてストレスフルだからって、そんな妄想はないわ~。 …ドン引き」
…思いを、よりにもよって、と頭につけて語らねばならない友人相手に吐露してしまう羽目に陥るのだ。
単純だったはずのものを、浅はかな素人考えでかき乱している感も無きにしもあらず。
2
私は、高校受験をあと半年ほどに控えた中学三年生で、性別はいちおう、オンナノコ…だったりするんだけど。
もともと骨格がちょっと太めで、さらに女子バスケ部でレギュラーもやっていて筋肉質なせいか、人よりちょっと、ほんのちょっとだけ、性別の判断に時間がかかる…かも。小学校の頃なんかは外に出るたびに男の子に間違われていたし。
そんな私でも、ほんの15かそこらのジョシチューガクセーであるわけだから、お年頃な悩みもそりゃあ両手の指の数くらいは持っているわけで。容姿とか成績とか嫌いな食べ物とかお父さんの体臭とかデリカシーのない友人各位とか…恋の悩み、とか。
去年、私が二年生で、まだレギュラーになれずにいた時期のことだ。
自分では、(部で一番ではないにせよ)熱心に練習しているつもりで、でも実力がつかなくて、一緒に入部した同級生たちにみるみる差をつけられて。
それでもようやく大会に出させてもらえるかも、というくらいには上達したところに、練習中のケガ。右腕の骨折、全治3週間。
その狙い澄ましたかのようなタイミングとか、出られなくなった大会とか、そもそも出られたかどうかわからないとか、一年後に迫った受験とか、お母さんのお説教とか、おにいちゃんが履き終えたパンツをためらいなく洗濯機に放り込むとか。あと先日、街角の占いでべちゃっと投げつけられた「大殺界」の三文字とか。
そんなこんなが有機的に絡まって網をなして、ようするにヤケになって私は部を、趣味を…生き甲斐を、投げ出そうとした。たったひとつの。
そんな私を本気で叱ってくれて、励ましてくれたのが『センパイ』だった。
お前バカだろ。逃げんなよ、これだからガキは。上達しないのは、お前が周りを見てないガキだからだ。やるべきことがわかってないからだ。
そんで、そんな大事な時期にケガなんかすんのは、やっぱり周りが見えてないガキだからだ。アホガキだからだ。アっホっガっキ! だからだ。
…ひとつしか違わない? ハッ!これだからゆとりのぬるま湯に浸かりきったガキは。その細けぇとこばっか目ぇいって、目の前にあるもっと大事なものから焦点ズラしてっとこがガキってんだよ。
何だお前、酔っぱらってんのか? バスの座席せっかく窓際にしてもらったのに酔っちゃった~。遠くに目の焦点あてて車酔い覚まさなきゃ~民間療法ゴイスー☆
…ってか? 酔ってない?そもそもそんなキャラじゃない?
キャラうんぬんは置いとくにせよ、酔っぱらってるのは事実だろ。『カワイソウなジブン』に、酔ってんだろ。
うまくならない、うまくいかない、そんな包帯でぐるぐる巻きにして、せめて暖を取ろうとしてる。
違うか?違うなら言ってみせろよ。こんな口うるさいオレなんか、さっさとそのガッチガチのギプスでぶっとばせばいい。どうした、ほら、やれよ、根性みせろ!
男子バスケ部のキャプテンで、みんなの憧れで、容姿や才能にだって恵まれていて、そんなひとに傷心を一層えぐられて、悔しかった。ほんとうに殴ってやりたかった。顔がパンパンになるまで殴り倒したかった。
悔しくて悔しくて悔しくて、でも一番悔しかったのは、そんなときでも「ギプスなんかで殴ったらセンパイが痛いだろうから」なんて鉛色の善良を盾に、気持ちを、この胸に満ちた猛毒を吐きだせない情けない自分だった。
センパイは自分が汚れるのも承知の上で、酔った私の口元にエチケット袋を差し出してくれたというのに。優しく背中をさすってくれていたというのに。
まっすぐで、生まれ持った才能をさらに磨く努力家で、でもちょっと説教くさくて暑苦しくて、笑うと目が猫みたいな線になるセンパイに恋をしたのはつまるところ、当然の帰結だった。
>>>『ぐりこ』その2 へ続く
『ぐりこ』 その1
ニコニコ動画に投稿している同名の楽曲のイメージ小説です。
・楽曲はこちら→http://www.nicovideo.jp/watch/nm13594425
・歌詞はこちら→http://piapro.jp/content/aczpze6xpqjcs85r
私→ミク
センパイ→KAITO
あたりで置換して頂けると、ピアプロの投稿規約的に健康な作品として成立できるので、よろしくお願いしますw
続きを読んで頂ける場合は次の作品に進んでください。
コメント0
関連する動画1
オススメ作品
剥き出しになった神経で
幾ら救いを求めても
痛みの先にはありはせず
振り出しになった理を
無下に心で下しても
催すオチには愛もない
せめてもの意図で
巻きつけて刻んでよ
そうじゃなきゃ眠いだけ
泣いてもさ千切ってよ...split tang

出来立てオスカル
Hello there!! ^-^
I am new to piapro and I would gladly appreciate if you hit the subscribe button on my YouTube channel!
Thank you for supporting me...Introduction

ファントムP
藍に染まる道 ネオンが滲んで
僕もいつの間にか 夜に溶けてた
溢れてゆく 夢みたいな光の中で
何を想い 何に耽るのか
冷たくなった思考が塗りつぶす
「喪失」という 二文字を
言葉にすれば 楽になれるのに
上手く笑えなくて 息を吐いた
凍る心に 愛を一つ落として
意味もなく 夜を数える...藍に溶けていく

ほむる
僕のことを傷つけた人間から
「君は傷つきやすい人だ」と言われた
「タイミングが悪かったね」と
心が丈夫なタイミングなら
僕がその言葉に耐えられるとでも思っていたのか
切って良かった縁もある
そうだろう?
この世に何千何万人といる
皆と関わる必要はない
傷つかなくて済むような生き方を...捏造疑惑 / 海霧 feat. 初音ミク

海霧
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)

時給310円
果てにいきたい願望
並列させれば褥瘡
積荷でもいい欲動
形を変えてよ矩形で
不滅は永遠のモチーフ
誰もが無残に散りゆく
非凡になりたい器は
正体不明さえ望む
情緒不完全体質
原色より淡色が好き...overwhelm, overlord.

出来立てオスカル
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想