「ラピスラズリ」「粉雪」「ストーブ」


「おじゃましまぁーす」
 学校からの帰りに、仲良しの加奈子の家にあがる。
 加奈子の家は今どき珍しいこじんまりした平屋建てで、築ウン十年なのだそうだ。でも外観と違って家の中は新しく、玄関を入ってすぐ右のキッチンには、食器洗い乾燥機まで埋め込まれている。
「お母さんは夜まで帰ってこないから、くつろいでていーよー」
 洗面所から加奈子が言った。
「はぁーい」
 そんなの言われるまでもない。
 リビングのストーブに火を点けコタツの中に足を放り出して寝転び、座布団をわきの下に敷いてテレビのリモコンを操作する。我ながら手慣れたもんだ。中学で同じクラスになってから、この家に何回おじゃましたかわからない。
 テキトーにチャンネルを替えていくとアニメが映ったので、しばらくそれを観てみた。
 魔法少女モノだ。うん、これにしよう。
 ごろんと仰向けになると、天井のすみっこにある小さな神棚に目が行った。青が混じった直径三センチくらいの、全体的に白い球が、うやうやしく飾ってある。
 なんだろー、あれ。今まで気が付かなかったな。
 なんとなく見ていると、加奈子がみかんと煎餅を持って入って来た。
「あ、由利ぃまたこんなのみてる」
「こんなのって?」
 ん、っと加奈子はアゴでテレビを示す。ちょうど少女が魔法ステッキで変身するところだった。
「こんなのとは何だぃこんなのとは。魔法少女は中学生女子にはかかせないアンチエイジングだぞ? 若返りの必須アイテムなのだ!」
 と言いながら煎餅に手を伸ばす。
「年と魔法少女は関係ありません」
 ムッ。
 断言しちゃったなこのコムスメ。二十年後に思い知るが良い。
「ところでさ、あの白い球ってなに?」
 煎餅を持った手で神棚の球を差すと、
「ラピスラズリって言う青い石なんだってさ。昔、お母さんが交通事故に遭った時に奇跡的に無傷で、帰ってきたらそれまで綺麗な青い石だったのが白くなってたんだって。なんか、まぁ、よく知んないけど?」
 アニメやオカルトに興味のない加奈子は、自分の家の神棚にも無関心だった。
 アタシたちは予定通りに宿題を済ませ「また明日ねーっ」と手を振り別れる。
 薄暗くなった道を、寒いなぁ、雪が降りそうだなぁ、なんて考えながら手をグーにして歩いていたら、本当にちらほらと粉雪が舞い始めた。

 その夜、アタシは風呂上りにパソコンの電源を入れて「ラピスラズリ」を調べてみた。
「ラピスラズリ・・・・瑠璃(るり)、パワーストーン・・・・強力な邪気祓い、呪術で使われた、・・・・持ち主を厄災から守り、役目を終えるとヒビ割れや変色が発生する」
 ・・・・って!
 マジで? じゃ、あの石は加奈子のお母さんを守って役目を終えたってわけ? スゲェー!
 明日、朝イチで加奈子に言ってやろう!
 あのオカルト嫌いがどんな顔をするかを想像して、アタシはウシシっと笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

三題噺 「ラピスラズリ」「粉雪」「ストーブ」

仲良し女子中学生二人の、なんでもない日常。1100文字程度。

閲覧数:68

投稿日:2010/12/19 22:11:14

文字数:1,247文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました