そして、土曜日の朝9時ころ。
『おはようございます』
「二人とも、おはよう」
大山北大学の正門で雅彦が高野と神波を迎えた。
「それじゃ、僕の部屋に行こう。二人の建物や部屋の出入りの権限はこちらで申請しておいたから」
「…ここが安田教授のお部屋ですか」
部屋を見ながら高野が言う。
「ああ、うちの大学以外の学生がこの中に入ることは少ないかな。それじゃ、話をしようか」
そういって二人に来客用のソファを薦める雅彦。
「…安田教授、多分今回の話は二人だけの方がやりやすいはずなので、俺は失礼します。どちらかが俺に遠慮する可能性はありますから」
「…そうか、すまないね」
そういいながら机からカードを出して高野に渡す雅彦。
「これは?」
「大学のカフェテリアや購買で使えるカードだよ。これを使えばいくら飲み食いしても大丈夫さ。この大学のカフェテリアはなかなかものだよ。そこでコーヒーなりを飲みながら時間をつぶしておいてくれないかな?終わったら呼ぶから」
「…俺が使った分は安田教授のご負担になるのでは?」
「そうだけど、こちらからここに招いておいて、そっちに色々と負担させるのは気が引けるからね」
「…分かりました」
そういって部屋を後にする高野。
「…緊張しているかい?」
高野が部屋を出てから、明らかに緊張している神波。
「…はい」
「肩の力を抜いた方が良いよ。ちょっと待っててね。コーヒーで良いかな?」
「はい」
神波のこたえを聞いてコーヒーを淹れる雅彦。しばらくすると、二人分のコーヒーとお菓子を持ってくる雅彦。カップの一つを神波の前の机に置く。
「…ありがとうございます」
そういいながらカップからコーヒーを飲む神波。同じくコーヒーを飲む雅彦。
「それじゃ、話をしようか」
「え?ええっと…、な、何を話しましょう?」
「…最初は神波君が悩んでいる人間関係のことにしようか」
戸惑っている神波に優しく話しかける雅彦。
「はい」
「ミクたちで創作している人は、世界中にいる。正確な数は僕も把握できてないけど、創作した内容を公開している人に限定しても相当数はいると思う。その人たちがそれぞれの考え方を持っているから、多分神波君とは考えが相容れない人はかなりいると思う。ということは最初に念頭に置いておいて欲しいんだ」
「…はい」
「…だから、相容れない人を避けることは不可能じゃないけど、ゼロにするのはかなり難しいと思うな」
「…それは、なんとなくですが気がつきました」
「…仮に、そういう人と意見がぶつかった場合、神波君ならどうするかな?」
その雅彦の問いかけに、しばらく考える神波。
「説得する…、ですか?」
「…その方法もやり方としては間違ってないけど、説得は結構難しいと思う。下手すると反発を招きかねないし、そもそも相手が説得を聞く気がなければ徒労に終わってしまうからね」
「そうですか…」
「場合によっては、他の人の意見は、そういう意見もある、と思うことも必要だね。落としどころが探れそうなら探っても良いけど、場合によっては聞き流したりするのも必要かな。…僕が一番重要だと思うのは、沢山の意見があることを認識して、受け入れることだと思う」
「…受け入れる、ですか?」
「受け入れる、というより、自分と相容れない意見を容認できるようになる、といった方が正しいかもしれない」
「容認?」
「ああ、自分と相容れない意見を排除するのではなく、容認できるようになる、ということは重要だと思う。少なくとも、自分を合わないからといって問答無用で排除するのは回り回って自分に返ってくる気がする」
「…そうするためにはどうすれば良いのでしょうか?」
「他者に対して寛容になることかな」
「寛容になる、ですか?」
「そうだね。いちいち反発していると疲れるし、何より殺伐としてくることが多い。それはみんなにとってプラスにはならない。いわないといけない時はあるだろうけど、そうでないなら無理にいう必要はないと思う。僕は寛容に考えた方が、結果的には疲れないと思う。ただ、寛容さに関しても状況による所はあるけどね」
「…分かりました」
「…さじ加減が難しいかもしれないけど、そこは慣れるしかないね。…ひょっとしたら僕のやり方は神波君には合っていないかもしれないから、合わないと思ったら変えて、自分なりのやり方を試行錯誤した方が良いと思うけど」
そういって微笑む雅彦だった。
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