「…という事があったんですね。」
よく晴れた空の下、メイド服の女の子はそう言って軽快に歩きながら後ろを振り返る。
「へぇーー…。」
その背中を付いて歩くサイドテールの長身の女性はそんな要領を得ない返事を返した。
話によると彼女は先日、昔の知り合いと偶然鉢合わせしてちょっとした口論になったそうだ。
なんでも近くの野原で1対1の決闘をしたとかなんとか…、正直どこまで本当かは分からないが、何か揉め事があったのは確からしかった。
少なくとも今はただ、彼女が無事に戻って来てくれたのが嬉しくて、ホッとしている自分がいる。
そんな事もあってか、私…鼓カノンは珍しくA子と二人で買い物にやって来たのだった。
「最近はこの辺も海外の人が増えたねぇ…。」
カノンはキョロキョロと周囲を見回しながら呟く。
昔から馴染みのある商店街だが、近頃は外国人観光客向けに見慣れない建物なんかも所々に増えて来ていた。
「ふーん、そうなんですか?」
それ対してA子は分からない、という風にそっけなく聞き返す。
そうして二人で近隣の量販店に入った時である、まばらな客の中に黒いマスクらしきものを被った奇妙な人影が私の目に映った。
(なんだろう?怪しい人だな…。)
そう感じると同時に彼女のお腹が唐突に嫌な危険信号を発する。
「ゴメン…ちょっとトイレ行って来るね。」
そう言ってカノンはそそくさとその場を立ち去った。
「はーい、お気をつけてー。」
お腹を押さえた彼女の猫背をA子はちょっと辛気臭そうに見送る、その背中が見えなくなった次の瞬間である。
「キャアアアーッ!」
店の中に絹を裂いたような女性の叫び声が響く。
「う…動くな!大人しくしろ!!」
咄嗟にA子が会計レジの方を向くと、そこには覆面を被った男が従業員を脅している姿があった。
その手に握られている黒光する物体は恐らく拳銃であろうか?
店内にざわめきが広がり、空気が強ばっていく。
これは不味い…彼女はそう思って身構えつつ先程カノンが向かった店のお手洗いの方を見やった。
一体こんな時にはどう行動するのが最適なのであろう?
少なくとも強盗犯に突撃して武器を無力化しながら相手を取り押さえるのが無謀である事は誰の目にも明らかだった。
A子が冷や汗を垂らしながら、しばしそんな思考を巡らせている時である。
「そこまでよ!」
不意にどこからともなくそんな声が聞こえる。
そして物陰から誰かが飛び上がると、天井近くで軽やかに宙返りをし、
スタッ!と心地よい音を立てて犯人の前に降り立った。
「な…なんだお前は。」
突如顕れた謎の人物に男が狼狽えながら銃口を向ける。
それはフリフリのドレスをしなやかな体躯に纏い、ピンクの長い髪を艶やかに靡かせた美少女であった。
「悪党に名乗る名前はありません!正義の鉄槌を食らいなさい!!」
そう叫ぶと美少女はバールのようなもので素早く男の後頭部を殴り付ける。
ゴィンッ…!という鈍い音が聞こえたかと思うと、犯人はグラリと姿勢を崩し、そのまま気絶して床に倒れ込んだ。
ほんの十数秒間のそんな出来事を目撃し、周りの客達があっけに取られていると、店の外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。
A子はガラス窓から外の様子を一瞥すると、再び犯人が倒れているレジ付近の方へ目をやった。
「あれ…?」
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 「…という事があったんですね。」
よく晴れた空の下、メイド服の女の子はそう言って軽快に歩きながら後ろを振り返る。
「へぇーー…。」
その背中を付いて歩くサイドテールの長身の女性はそんな要領を得ない返事を返した。
話によると彼女は先日、昔の知り合いと偶然鉢合わせしてちょっとした口論になったそうだ。
なんでも近くの野原で1対1の決闘をしたとかなんとか…、正直どこまで本当かは分からないが、何か揉め事があったのは確からしかった。
少なくとも今はただ、彼女が無事に戻って来てくれたのが嬉しくて、ホッとしている自分がいる。
そんな事もあってか、私…鼓カノンは珍しくA子と二人で買い物にやって来たのだった。
「最近はこの辺も海外の人が増えたねぇ…。」
カノンはキョロキョロと周囲を見回しながら呟く。
昔から馴染みのある商店街だが、近頃は外国人観光客向けに見慣れない建物なんかも所々に増えて来ていた。
「ふーん、そうなんですか?」
それ対してA子は分からない、という風にそっけなく聞き返す。
そうして二人で近隣の量販店に入った時である、まばらな客の中に黒いマスクらしきものを被った奇妙な人影が私の目に映った。
(なんだろう?怪しい人だな…。)
そう感じると同時に彼女のお腹が唐突に嫌な危険信号を発する。
「ゴメン…ちょっとトイレ行って来るね。」
そう言ってカノンはそそくさとその場を立ち去った。
「はーい、お気をつけてー。」
お腹を押さえた彼女の猫背をA子はちょっと辛気臭そうに見送る、その背中が見えなくなった次の瞬間である。
「キャアアアーッ!」
店の中に絹を裂いたような女性の叫び声が響く。
「う…動くな!大人しくしろ!!」
咄嗟にA子が会計レジの方を向くと、そこには覆面を被った男が従業員を脅している姿があった。
その手に握られている黒光する物体は恐らく拳銃であろうか?
店内にざわめきが広がり、空気が強ばっていく。
これは不味い…彼女はそう思って身構えつつ先程カノンが向かった店のお手洗いの方を見やった。
一体こんな時にはどう行動するのが最適なのであろう?
少なくとも強盗犯に突撃して武器を無力化しながら相手を取り押さえるのが無謀である事は誰の目にも明らかだった。
A子が冷や汗を垂らしながら、しばしそんな思考を巡らせている時である。
「そこまでよ!」
不意にどこからともなくそんな声が聞こえる。
そして物陰から誰かが飛び上がると、天井近くで軽やかに宙返りをし、
スタッ!と心地よい音を立てて犯人の前に降り立った。
「な…なんだお前は。」
突如顕れた謎の人物に男が狼狽えながら銃口を向ける。
それはフリフリのドレスをしなやかな体躯に纏い、ピンクの長い髪を艶やかに靡かせた美少女であった。
「悪党に名乗る名前はありません!正義の鉄槌を食らいなさい!!」
そう叫ぶと美少女はバールのようなもので素早く男の後頭部を殴り付ける。
ゴィンッ…!という鈍い音が聞こえたかと思うと、犯人はグラリと姿勢を崩し、そのまま気絶して床に倒れ込んだ。
ほんの十数秒間のそんな出来事を目撃し、周りの客達があっけに取られていると、店の外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。
A子はガラス窓から外の様子を一瞥すると、再び犯人が倒れているレジ付近の方へ目をやった。
「あれ…?」
狐につままれたような光景に意図せず彼女から驚きの声が漏れる。
先程までそこにいた謎の美少女の姿が、一瞬目を離した隙に影も形もなく忽然と消えていたからだ。
「お待たせ~、なんだか騒がしいねぇ。」
一転してのほほんとした雰囲気を醸しながらカノンがトコトコとトイレから帰って来る。
気を失った犯人は無事到着した警官に補導されていた。
「カノンさん、トイレ長かったですね。」
なんとなくA子は彼女に尋ねてみる。
「へっ?う…うん、ちょっとねぇ。」
乙女は気まずそうに頬を赤らめ口ごもりながらモジモジと体を悶えさせていた。
その後、二人は店を出て偶然居合わせた事件について語り合いながら家路に着く。
珍しい事もあるものだと、幾つもの他愛もない話題の内の一つとして。
そう…その時はそれで良かったのだ。

「ピンポーン♪」
あくる日、無造作に鼓家のインターホンが鳴る。
「はーい!」
ちょうど居間にいたカノンは玄関へ向かい来客を出迎えた。
「こんにちは、鼓さん。」
やって来たのは黒髪の若い女性、名前は何といったか?私はその顔に少しばかり見覚えがあった。
「えっとぉ…、仁光さんでしたっけ?」
カノンは自信なさげに目の前の人物に尋ねる。
確か彼女は自分と同じ高校の卒業生で、当時は映画研究会に所属していたような記憶があった。
「ええ、元映画研究会会長の仁光ニコよ。今日は貴女に聞きたい事があって来たの。」
そう言いつつ黒髪の女性は不適な笑みを見せる。
彼女はコンピューター愛好会のメンバーの友人で、在学中はその部室にも何度か姿を見せていた。
カノンと多少の面識があるのもそれに起因したものなのだが、それ以上の関係はこれと言って特にない。
そんな人が一体何の用だろう?と私は頭にハテナマークを浮かべつつ家の入り口に佇んでいた。
「はぁ…それでぇ、一体何のご用でしょうか…?」
なんとも能天気な口調のカノンをしばし観察するように眺めていた彼女の口から、
一呼吸の間を置いて耳を疑うような突飛な台詞が発せられる。
「単刀直入に聞くわ!鼓カノンさん。あなた、『魔法少女』でしょ?」
その毅然とした言葉に、私は自分の思考回路が軽くフリーズするのを感じていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

#16:魔法少女フリモたん登場(ハート)

jamバンドメンバーの一人、鼓カノンを主役にした二次創作小説です。
今回の作中のアイディアは手塚治虫先生のマンガ作品「キャプテンKen」を参考にしています。
(※オリキャラ・オリ設定注意。)

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投稿日:2025/06/08 00:17:58

文字数:3,680文字

カテゴリ:小説

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