こんにちは!高橋一大です。
深く沈んだ箱庭の底には誰も知らない機械がひとつだけ置かれている。
それは息を吸うたびに誰かが忘れたささやきを一つずつ拾い集めて小さな硝子の球体へと変えていく装置だ。
街のあかりがすべて消えてしまってもその球体だけは微かに青く光り続けている。
触れると冷たくてほんの少しだけ悲しい匂いがした。
かつてここにはたくさんの人がいて笑ったり泣いたりしながら言葉を交わしていたという。
けれど流れた時間の波がすべてを削り去り残ったのは誰にも届けられなかった歪んだ誓いだけだった。
声にならなかった音は空気の隙間に溶けてやがて美しい結晶になる。
それを集めて飾るのが私のたったひとつの仕事だ。
遠い空から降ってくる光の粒を浴びながら私は指先でその結晶を並べ替える。
並び順を変えるたびに小さな音楽が鳴り響く。
それは歌のようでもあり誰かのすすり泣きのようでもある。
形のない想いが形を持つ瞬間は何よりも美しくてそしてどこか恐ろしい。
あなたは自分が置き去りにした言葉のゆくえを考えたことがあるだろうか。
消えてなくなったと思っている過去は今もこの静かな場所で静かに呼吸を重ねている。
名前を失った想いたちは互いに寄り添い合いながら新しい物語を紡ぎ始めているのだ。
壊れた観覧車の隙間を抜けていく風が古い記憶の破片を遠くへと運んでいく。
私はそれをただ見送るだけで追いかけようとはしない。
旅立った破片がどこか遠くの誰かの夢にたどり着くことを知っているからだ。
この世界には終わりなどなくてただ形を変えて巡り続ける幾つもの輪があるだけなのだ。
もしもあなたがどこかで不思議な旋律を耳にしたら思い出してほしい。
それはきっとあなたがいつか手放した大切なカケラが戻ってきた証拠なのだから。
冷たい水底で静かに紡がれ続ける終わりのないおとぎ話をあなたの心に届けるために。
誰の目にも触れることのないこの回廊で私はいつまでも待ち続けている。
新しく生まれ落ちる悲しみや喜びが硝子の結晶となってここに辿り着くその瞬間を。
世界の果てに紡がれた旋律があなたの夜を優しく満たす日までこの場所でずっと詩を編み続けている。
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