強い日差しは濃い影を落とす。建物に両側を挟まれて伸びている階段は暗い。かたんことんことん、と羊の蹄が踏み板で音を奏でる。ゆらりゆらりとその背中でリズムを刻みながら子供は階段の切れ目、しろいひかりで満ちている先を見上げた。
かたことん。と長い階段を上った先、見晴らしの良い場所に出た。羊が疲れた様子でぶるりとひとつ体を揺らし、今まで自分が登ってきた階段を見降ろした。
―ここまで頑張ったんだから、本気で何かしてもらうからな―
全身マッサージか美食フルコースかそれとも両方ともか。
ぶつぶつと疲れきった羊は呟く。が、そのぼやきを全くもって無視をして子供は、たしたし、とまたもや無遠慮に羊の頭を叩いた。
「そんなことよりも、見てみなよ。」
そう言って眼下を指さす。
子供が指さした先には町が広がっていた。中央の大きな道に沿って並ぶ看板の付いた家、やたら偉そうに場所をとっている大きな家や所狭しとぎゅうぎゅう並ぶ小さな家。川が町の中に横たわり、隙間を縫うように細い階段や路地が幾筋も伸びている。色とりどりの屋根が、古いものも新しいものも修繕したものも、当たり前の顔をして雑多に並ぶ光景。それは、そこまで大きくない、けれどたくさんの人が住んでいる、人が生活を営んでいる町の姿だった。
こんなに広いんだな。そう子供が呟くように言った。
「町というのは、こんなに広くて狭くてごちゃごちゃしているものなんだな。」
―お前、こうやって町の全貌を見るのは初めてだっけ―
羊の言葉に、子供はこくん。と頷いた。
「だっていつも灯を点しに社に行って、それで終わりだったから。」
そう言う子供の声の中に、この雑多な中に息づく人を羨む様な、そんなものが滲み出ているのを感じ、羊は目を細めた。
―煩わしいだけだよ。ここに縛り付けられて、異変が起こっても閉じこもるばかりで逃げ出すこともできないなんて、ちょっと御免だな―
「だけど、御免なのは、ちょっとだけなんだろう?」
羊の言葉尻をとらえて子供が揶揄するように笑う。その言葉に、うるさいよ。と羊は顔をしかめた。
―うるさいよ。実際その通りだけど。おれだって一定の場所でのんびりしたい気持ちはあるけれども。そこは言わないでおくのが優しさってものじゃないか―
「あいにく子供にはそんな優しさはないんだ。」
にやりと笑って子供は、さてと。と改めて周囲を見回した。
見まわした町の中に社らしい雰囲気の建物は見当たらない。普通の、普通の人の気配しかそこにはなかった。
「やっぱり社は見つからないな。」
―あたりまえだよ。高いところから見下ろしたとしても、社は灯がなくなって暗くなっているんだから―
やっぱりこんな高台に登ってくる意味なんてなかった。と不満を言う羊に、じゃあとりあえずこのまま進もう。と子供が声をかけた時だった。
ワンダーランド・3~ワンダーランドと羊の歌~
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