機械に命を吹き込む――機械は人々に夢を与える。
名は、ボーカロイド…詩を歌う人型ロボット。

笑顔にあふれ、歌う事を好む人々の下へ、
人が送り届けた一人に一人のパートナーである。

そして、光降り注ぐ世界を拒んだ少女も、また。



――Session.可能性



外はいつもの快晴、雲一つないすがすがしい天気だった。
学生は登校中に笑いあい、音楽機器を片手に歩いている。
時に互いを突いたりじゃれあう姿は、光の世界で。

何の変哲も無い公立高等学校の教室の座席の一つ。
分厚い本を半分に開け、右手はぺら、とページを一枚捲る。
しかし黒い瞳は本に向けられることなく、延々と校庭を眺めていた。

「…」

少女は、呆然と外を見つめているしか出来なかった。
静かに一人の時間を過ごす少女の周りには、誰もいない。
朝の教室の騒がしさは、この少女とは無縁のものだった。

そんなクラスメイトの隣には、必ずと行って誰かがいた。
誰かと言うのも、寧ろ当たり前の存在である、ボーカロイドだ。
友達と仲良さそうに話している少女の隣には、黄色い少年。
また別の男子の隣には、青い髪の青年がアイスを持って座っている。

一種の生活用品とまでなったボーカロイドの存在。
勿論、この少女にも、パートナーであるボーカロイドがいる。

「蓮、もうすぐ朝礼が始まる」

声をかけられて視線を向ければ、黄色い少年が教壇を指差し、
それにつられて送れば、指の位置が上がり、時計が示される。

キーン コーン カーン コーン…

何処の学校にも存在する音を聞き流していると、
ガタガタを机のぶつかりあう音、椅子を引く音が響く。
「起立、礼、着席」なんて言葉が聞こえても、知らぬ振り。

一番後ろの窓際の席である少女は立ち上がる必要も無い。
目の前の席の青い髪の青年は、背が高くて簡単に隠れるからだ。

「蓮、ちゃんと立たないと…」

「五月蝿い」

パートナーである、ボーカロイド”鏡音 レン”の言葉を遮り、
つっけんどんに五月蝿いと言い放った。
まだ春の校庭には桜が満開に咲いているのが窺える。

まだ入学したての学生達は、制服を着崩すことなく着用し、
けれど初々しい様子で、先生の話を聞いているようだった。

ふつり、瞼を閉じて物思いに耽る。
忘れもしない、隣に居るレンがやってきた日のこと。

『初めまして、マスター』



続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】 可能性

閲覧数:114

投稿日:2010/01/07 22:41:01

文字数:1,002文字

カテゴリ:小説

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