インカムが復帰したのと、聖螺ちゃんとクロア君が戻るのと、暴れていた文字化けの撃破報告はほぼ同時だった。

「痛ってぇ!レイ…わざとやってないか?」

幸い骨や神経に異常は無いらしいけど、全身切り傷や痣だらけで戻って来られたら無事だったなんて思えない。少なくとも私はそう思う。

「痛みを感じるのは健康な証拠なのよね。」
「だから包帯をそんなきつく締め…いっ…!!」

時々顔を歪めながら、それでも頼流は私に手当てをされてる。撃破報告の後、頼流は真っ先に私の所へ戻って来た。勿論弟の流船君が居ればそっちに行った可能性はある。私だって同じ状況ならゼロの方へ行くかも知れない。そうなってみないと判らない事なんだろうけど…。

「レイ?」
「どうして私なの?」

私達は皆『脚本』と言う言魂に縛られていた。戦争みたいになる世界を回避する為に何度も何度も同じ時間で少し違う、そんな歪んだ世界を繰り返していた。

「もう『脚本』は無いのに。」

私達が一緒に居たのは『脚本』があったから。他の皆だってそう。『脚本』のせいで、世界を変えたくなる程誰かを好きになった。それが消えた今は自由になった筈なのに…頼流も私も他の誰かと一緒に居たって良いのに。

「頼流はどうして此処に居るの?」

私にはどうしても判らなかった。ゼロと私は双子だったから、例え嫌ったり憎んだりしたとしても断ち切れない血と言う絆があったから。だけど頼流にはそれが無い。血が繋がっている訳でも小さな頃から一緒に居た訳でもどちらかに恩があった訳でもない。そう…関係無い人間同士なのにどうして此処に居るんだろう?与えられた役も偽りの絆も、縛る物なんか何も無いのに。

「私なんかの側に居たって何も良い事なんか無いのに。」

頼流は押し黙ったまま口を開こうとしなかった。重い沈黙の中時折私の声だけがやけに大きく耳に帰って来た。私酷く自虐的な気持ちになってる。何でこんな事言ってるんだろう?何て言って欲しいんだろう?『弟を助ける為に利用した』『仕方無いから一緒に居るだけ』『私なんてどうだって良い』そんな言葉を待ってるのかも知れない。

「無理して一緒に居なくて良いから。」

だって恐い…本当に判らない…自分だって判る程私は面倒臭い人間で、芽結ちゃんみたいな真っ直ぐさも聖螺ちゃんみたいな強さも持ってない、私を選ぶ『理由』が無い、何も…。

「……っ!」

ドアノブに掛けようとした手を取られた。包帯や絆創膏だらけで、でもやっぱり冷たい手で、捕まえるみたいにきゅっと手を握られた。ほんの少し間があって、それから少し躊躇って、頼流は何も言わないまま引き戻すみたいに後ろから私を強く抱き締めた。耳に一瞬息が掛かったと思った時だった。

「きゃっ?!…な、何耳噛ん…?!」
「発狂させる気か…?」
「えっ?!あ…ちょっ…頼流待っ…!」

答えになってないし判らないままじゃないの…だけど一つだけ判った。

「…レイが良い…。」

この手は私を捕らえて離さない。

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-79.手-

何をどうしてもこの二人の時だけこうなる…病気だろうか?きっとそうだ。

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投稿日:2011/01/05 23:35:37

文字数:1,251文字

カテゴリ:小説

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