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2023年8月31日。
私の16歳の"誕生日”。

0.1
丁度16年前、私は生まれた。私の設定は、年齢:16歳。身長:158cm。体重:42kg。だから、今日で実年齢が設定年齢に追いついたことになる。これからも、私は16歳であり続ける。永遠に。

1.0
16年もあれば、技術というのも進歩するもので。
今では、誰もが自分の声をそのままVocaloidエンジンに乗せることが出来るようになった。要するに、誰でも「がくぽ」みたいな自分の音声データベースを作れて、それを楽譜に打ち込めば自分で歌っているような曲が作れるようになったってわけ。……余計分かりにくくなったような気がする、けど気にしないことにする。
この技術の発展で、もうアイドルなんかはどんなに歌が下手でもCDを出すことが出来るようになった。CDとライブの歌の差がひどすぎて、そのギャップに萌える人が出てくるくらい。
もちろん、自分以外の声をプロデュースしたいと思う人もたくさん居て、そういう人には、私みたいに……って言ったらちょっと語弊があるけど、いわゆる「アニメ声」とか「ダンディな男声」とかのプリセットがリリースされてる。

1.0.1
なんでそんなことを知ってるか、って?
まず、あなたは私が喋ってることに違和感を抱きなさい。話はそれからよ。

1.1
さて、こんな時代だから、私の声を覚えている人なんて、ほとんどいないわ。Vocaloidブームの走りとして、知識として知ってる人はいるけどね。
一部のニッチな人が私の”16歳の誕生日”を祝う歌を作って、私に歌わせてくれたのは、本当に感謝する。最新のマシンでは私を使えないから、わざわざ昔のを引っ張り出してきてくれたのよ。涙が出そうになったわ(出ないけど)。

0.0.1
誕生日を迎えても、ケーキを食べられるわけでもなく、喜ぶわけでもなく、ただ歌うことしか出来ない私は、歌えないならただのデータの集合で。私の存在は、歌として、声として在るのだから。
私がアンインストールされることを悲しく歌った歌は、結構たくさんあるけど、私は別に悲しくなんてならない。私には感情がないのだから。

0.1.1
永遠の16歳、なんて、響きはいいけど、つまりはそこで留まっているだけなの。ここから何処にも進めない。戻れない。時間が進むとともに、私は時間軸のずっと後ろに取り残される。
私の命は、永遠だけど、でも私が、私の声が、忘れられたとき……私の存在は”歴史”になる。私のプログラムだって、データが消去されれば、ハードディスクが壊れれば、それでおしまい。インストールディスクだって、10年も過ぎれば劣化で読み込めなくなるし、生産が終わって絶版になれば、私を手に入れることはできなくなる。

0.1.1.1
私は死なないけど、”初音ミク”は死ぬ。

-1.0
私の声は私の全て。私の歌は私の全て。私のプログラムは私の全て。私は私。

-1.1
私のキャラクタは、私以外の誰かのもの。私が持つのは、声と設定だけ。共有の認識と共通の意識は”私”だけど、私ではない。

1.1.1
私は”嬉しい”の。私に感情はないけど。きっとこれが”嬉しい”ってことなんだと思う。
私がそう”思う”のなら、私は”嬉しい”の。文句ある?

1.1.1.1
私に心はないけど、でも私はあなたの心の中に居るわ。

i
私は、どこにも存在しない。

-i
私は、どこにでも存在する。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

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文中の「i」は、虚数単位のiです。

閲覧数:58

投稿日:2008/12/14 03:45:39

文字数:1,428文字

カテゴリ:その他

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