黒い影が落ちた部屋、私は窓から外を覗く。

 灯りのないここは、月明かりだけが照らしてくれる。

 けれども今日は駄目ね。

 冷たい雨音が、容赦なく視界を閉ざしていく。

 それが私を責め立てる怒鳴り声のようで、とても怖い。

 こんな晩は、一人でいたくない。

 目を伏せると、ぎゅぅ、と隣にいた彼を抱きしめた。

 離れないように、強く。

 突然の私の行為に驚いた顔をした君だけど、すぐに「仕方ないなぁ」、と受け入れて私の頭をなでる。

 それでも日付の境界を越えたその瞬間、これは消えてしまう泡沫の夢のようで、不安は消えてくれない。

 だから不意に君を見上げた私から目を逸らさないで。

 ただ私だけを見て欲しい。

 けれどもそれは無理ね。

 わかっている、だから偽りの優しさで……夜が開けるその時まででいい、私だけのものでいて欲しい。

 ――嘘をつき通して欲しい。

「レン…、愛してる……」

 彼の胸元にそっと顔を寄せると、シャツが柔らかなシワを作り出した。

 彼は何も答えない。

 ただ哀しみを帯びた切なげな表情を浮かべるだけ。

 かわりに私を抱き返す。

 優しく、ガラス細工ように、私を包み込む。

 ただ私は彼とこうして体温を分かちあうだけ。

 ………あぁ、今だけでいい。

 刹那の時に溺れるように、君を感じさせて欲しい。

 そう願ってレンの唇に触れようと首を伸ばす。

 私の想いを察した彼は片腕を私の腰から離すと、その手を使って拒絶の意思を示した。

 塞がれた彼と私の顔の距離、数センチ。

 たったそれだけの間なのに、とても遠すぎて手が届かない。





 全てに等しく終わりは訪れると誰かが言った。

 そんなことがただ、寂しすぎて涙がとまらない。

 だから私は考えることをやめたの。

 彼が愛するは、自身の半身。

 生き写しの彼女へ向けられた彼の恋慕は業となってレンを苦しめる。

 夜毎隣で眠る彼女へと向かう、おぞましい想い。

 それを知った私は、闇の魔物が潜む間だけ彼を部屋と招き入れた。

 助けてあげたいと思った、弟のような少年。

 でもどうして、いつの日か彼女を想う強く激しい激情を持つ彼に、私こそが恋情を抱く。

 ……どうして…。

 ただただこうして君の温もりを感じているだけじゃつらすぎる。

 二人闇の中、もっと深くへただ堕ちて行こう。

 心交わることない私たちならば、せめて身体さえも溶かすほどに…。

 夜毎繰り返される愛の連鎖。

 許されないのは、たった一度のキス。





 ――鏡の中の私が笑ったような気がしたの。

 かわいい童話の中の女の子。

 彼女がウサギを追いかけた後の結末も、もう思い出せない。

 でもきっと末はハッピーエンドね。

 おとぎ話だもの。

 私もそんな風に絵本の住人だったら、彼との幸せな未来をつかめたのかな。

 いつもの時間、彼が来る少し前。

 鏡の前に立って髪を梳く。

 でもどうして、映し出されるのは、悲劇のアリス。

 罪の色で飾り付けた愛で、彼を縛り付ける。

 なんて自分勝手。

 気がつけば櫛は手からこぼれ落ち、瞳に大雨洪水警報。

 忘れたくない、失くしたくない。

 愛しい彼の名を、そっと何度もつぶやいた。

 窓の外では今日も降り注ぐ、神様の涙。

 止まない雨は、全てを流してくれるのかな。

 いつしかこの日々も、記憶さえも…。

 ――こん、こん。

 ふと、扉を叩く音が聞こえた。

 外には、水滴を滴らせた君の姿。

 今日も君は、訪ねてきた。

 昨日も。

 きっと明日も。

 優しさなんて偽りでいい。

 夜が開けるその時まででいい、嘘をつき通して。

 だから、刹那の時に溺れる様に君を感じさせていて欲しい。

 今だけは…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

闇色アリス

ボカロ歌2次創作の処女作。
とっても大好きで、よく聞かせていただいています。

本家PVではあのぐるぐる回る時計がお気に入り。

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投稿日:2009/08/23 00:31:01

文字数:1,606文字

カテゴリ:小説

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