確かにそうだ未来も親父も少女になった、ありえないことが起こっているのはわかってる、テレビもまともに放送されてなかったし携帯電話だって繋がらないし町の様子もなんか変だし、この世界で何かが起こっているのは疑いようのない事実だ、でも。

「だからありえないって言ってるんですよ!」

手に持った携帯電話を見ながら怒鳴っていた。
大声を出すつもりはなかったのに勝手に口が動いていた。

何でこんなに苛ついているんだろう? 自分でもよくわからない、乱れた感情が喉を通して外に出ようとしている気がして口を閉じた。

晶さんからは何も返ってこない。
隣にいる彼女の方を見れず、立ち止まったまま携帯電話の画面を見ていた。
そこにはもう動画は流れていない。

何でこんなに苛ついているんだろう? 現実を受け入れたくないから? 右往左往している自分と比べて晶さんが冷静だから? 未来や親父が少女になってしまった俺の気持ちなんて晶さんにはきっとわからないだろうって思ったから? 色々なことが湧いてきて掴みどころがない。

「…すいませんでした、大声だして」

そう謝り彼女の方を見ずに携帯電話を返す。
目を見て話すことができなかった。
ただ、晶さんは悪くない、それは確かだったからとにかくそれは伝えたかった。

「晶さんは何も悪くないです、ただ俺、」
「ごめんね…」

こちらの言葉を遮るように晶さんは声をかぶせてきた。
携帯電話を持つ俺の手を晶さんの手が握りしめてくる。
なんで晶さんが謝るんだろう、彼女のその謝罪の言葉を否定しようとしたがそれを許さないように彼女は話しを続けた。

「でもこれだけは覚えておいて…私は戦うよ、そして悟くんも戦わなきゃいけない」

晶さんの方に顔を向けると、彼女はこちらを見ながら寂しそうな微笑みを浮かべていた。

戦う。
唐突にでてきたその言葉の意味をすぐには理解できなかった。
突然なにを言い出すんだろうとさえ思った。
…でも心のどこかでは本当はわかっていた。
逃げないでこの異常な世界と真っ正面から向き合わなきゃいけないって。

でも俺は何も言えなかった。

…そして晶さんと別れてから約5時間半後の201*年7月25日午後3時に、政府から緊急事態の布告が発せられた。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(23)

ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。

なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
『文の終わりに改行』
『段落ごとに一行空ける』
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。


閲覧数:130

投稿日:2011/11/14 12:27:09

文字数:946文字

カテゴリ:小説

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  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    メッセージのお返しありがとうございます☆

    私の、この物語の感情移入は、主人公に乗っかっていますね♪

    最初の「えええ!親父もリンちゃんか!」の驚きが主人公に重なったおかげで、素直に驚きつつも現状を把握しようと動いている彼の視点で読んでいます。
    晶さんが登場し、説明パートに入ってきた雰囲気ですので、さあどう動く!とドキドキ身構えている感じでしょうか^^

    映画ならまだ序盤!というイメージです。どういう物語になっていくのか、楽しみです。

    2011/11/26 23:42:06

    • リンちゃんの使い魔

      リンちゃんの使い魔

      貴重な意見をありがとう!
      参考になります!

      最初は、個性の強いキャラクター達が走りまわるドタバタコメディっぽい物語にする予定だったんだけど…その時の流れに任せちゃう書き方をしてるんで、構想とは違ったものに。
      プロットとは違いシリアスなサスペンスっぽい感じになってきてるんで、どうしたものかと。(^_^;)


      感想をくれて、本当にありがとう!


      2011/11/29 21:51:05

  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    こんばんは。リアルと現実の狭間(!)で戦っていたら「リンちゃん」が増えていて、何だか励まされました。仕事で悩む時、そしてプライベートで悩むとき、「もー全員リンちゃんになってしまえ!」と思うのはだいぶ毒されてしまったのでしょうか^^
    体は一つしかないのに関わる世界は歳を経るごとに増えていき、軋みをあげる現実の中に生きていく上で、空想物語は一時の隠れ家です。
    今回は映像にしたら「萌え」なシーンですね☆今後も楽しみにしています♪

    2011/11/21 23:24:02

    • リンちゃんの使い魔

      リンちゃんの使い魔

      いつも感想をくれてありがとう!

      物語の世界に浸り現実の世界から少し離れる…小説(漫画や映画を含む)ってほんとに素晴らしい!

      でも正直なとこ、自分が書いてきたものを改めて読んでみてふと思った。
      この作品…どこで感情移入すればいいんだろう…って。

      感想をもらうたびに、自分に足りないものが見えてきて、本当に感謝してます。


      2011/11/22 22:43:53

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