『その日、森の中を旅人らしき人影が歩いていた。』
『そのうち三名は背が低く、残る一名はやたらと長身である。』
『四人が一列で並んで歩いていると、木々を抜けた先に集落らしき建物が見えた。』
「お!村が見えて来ましたよ?」
背の低い少女の一人が他の三人にそう伝える。
「えっと、私達って…どういう目的で旅してるんだっけ?」
赤い衣装の女の子がシドロモドロに尋ねた。
「細かい設定は決めてないけど、こういうのは魔王を倒す為の冒険と相場が決まってるニョ。」
魔法少女風のコスプレをした女の子が不思議な語尾と共に返事をする。
「その為にはまずあの村で情報を集めないとね。」
最後に背の高いサイドテールの女性がみんなに確認するように言った。
『四人の冒険者達はそのまま村の中へ入ります、イベント発生の為にA子さんはダイスを振って下さい。』
「了解でーす。」
機械的なアナウンスに促され、A子と呼ばれた少女はサイコロを投げた。
「2が出ました。」
彼女がその出目を伝えると、再びナレーションは物語を進行させる。
『それでは貴方達が村を歩いていると道端に防具屋が見えて来ます。貴方達はそこで新しい装備を整えたいと思うでしょう。』
「私達は今いくらくらいお金を持ってるの?」
長身の女性がおもむろに聞いた。
『そうですね、それでは皆さん一人ずつダイスを二回振って、その合計値を所持金にして下さい。』
どうやら何かにつけてサイコロで設定を決めて行くらしい、三人は言われた通りそれぞれ二回、六面の立方体を地面に投げる。
「3と5、合計8です。」
「4と2、合計6。」
「6と5、合計11ニョ。」
「1と3、合計4。」
『了解しました。それでは8G・6G・11G・4Gが皆さんの所持金です。』
「メロディちゃんが一番お金持ちだね。」
「フフフ…、これで高額防具が手に入るニョ。」
二人の女の子が仲良さげに談笑していると、天の声が話を続けた。
『では店に入った貴方達を防具屋の店主が出迎えます、その後ろには馬のような生き物が柵の中に入れられていました。』
「防具屋なのに馬…?」
A子は店内の様子に少し怪訝そうな顔を見せる。
「やっぱりAIを使った自動生成だから少し変なシナリオになってるのかなぁ?」
私は困った風な表情でポリポリと頬を掻いた。
先程から彼女達を誘導している声の主はロールプレイングゲームの進行用に作られた人工知能で、まだ実験的に作られた試作品である為、ところどころ受け答えに違和感があったりするのだ。
『ウチでは皮の防具を扱ってるよ、気に入った商品を選んでくれ。』
店主の説明を聞いて、後ろの二人が残念そうな演技をする。
「皮の服かぁ、私はエルフ族だから布系の服しか装備出来ないんだよね。」
「カノン姉もかニョ、アタシも巫女だから血生臭いのはダメニョ。」
『そんな冒険者の様子に店主は少し不機嫌そうです。』
AIは本来そこにいない防具屋の心理描写について適当にプレイヤーに語ってみせた。
「じゃあ私が買いますね、この5Gの服をください。」
A子は渡された武器設定の用紙を眺めながら、記載された商品を指差す。
『あいよ、ちょっと待ってくんな。』
『そう言うと男は刃物を取り出し、背後にいた柵の中の獣を斬り付けた。』
「えっ?」
急な出来事にA子は思わず驚きの声を漏らす。
『男はそのまま獣の皮を剥いで器用に糸で縫い付け服を作っていきます。
そのスプラッタな光景に冒険者達はショックを受けSAN値が減少するでしょう、ダイスを振って下さい。』
「えぇ…。」
私も呆然としながら戸惑いの感情を口にする。
「これってクトゥルフ系のシナリオだったニョ?」
少しヒヤヒヤしながらメロディが賽子を振った。
残る三名もその流れに続く。
「確かSAN値が減りすぎると発狂状態になるんだよね。」
サイコロの目を確認し、メロディの友人らしき女の子は自分のキャラシートとにらめっこしていた。
「えーと、これで今さっき剥がされた皮の服を着るんですか…?」
あからさまに嫌そうな表情でA子は人工知能に確認する。
『了解しました、ではA子さんは不快感でさらにSAN値が2減少すると言う事で。』
「うへぇ、仕方ないですね。」
流石にA子も思うところがあるようで、嫌々ながら装備を更新しているようだった。
「ユキちゃんはどうするの?」
私はふと隣にいる妹の同級生に声をかける。
「えっと…、私は今の装備のままでいいです。」
先程のやり取りからこの店で買い物をすべきではないと考えたのだろう、
彼女は両手の平を胸の前に出して遠慮する仕草を見せて言った。
『毎度あり、また来てくれよな。』
『店主と別れの挨拶を交わし、冒険者達は防具屋を出ていきます。』
「それじゃ、ちょっと村を探索していくニョ。」
少々気落ちしている三人を他所に、メロディが率先して今後の展望を示す。
『それではまたイベント発生のダイスを振って下さい。』
今回のゲームの大まかな流れは、冒険者が訪れた村で事件が起こり、それを解決しながら物語の黒幕の元へ辿り着くという内容だった。
そこに文章生成AIとプレイヤーとの会話を通してストーリーの肉付けを行っていくのだが、人工知能はどうしても話があらぬ方へ脱線しがちになってしまう。
その為、人間の方で物語の進行方向をある程度調整してやる必要があり、
AIを上手く制御するロールプレイが出来た者には、最終的にエンディングを迎えた後で
他のプレイヤーからボーナスポイントを貰えるという独自ルールが盛り込まれていた。
「じゃあ次はカノンさんが。」
私が上の空で考え事をしていると、A子がそう言ってサイコロを渡して来る。
「う…うん。あ、1だ。」
なんとなしに投げた賽の目は赤い瞳を上に向けて佇んでいた。
『それでは冒険者の目の前に防具屋が見えて来ます、貴方達はそこで装備を整えたいと思うでしょう。』
「また、防具屋ですか?」
困惑した様子でユキが発言する。
「AIってこういう風に同じような展開を繰り返す事があるんだよね…。」
そう説明してイベントをスルーしようとするカノンをメロディの声が遮った。
「待つニョ、わざわざ同じ店を二回出して来るのには何かストーリー上の理由があるのかもしれないニョ。」
「まぁ…さっきの店では私以外買い物出来ていませんし、何が売っているのかくらい見て行ってもいいんじゃないですか?」
そんな妹の意見にA子も同意するように口を出す。
『では冒険者達は防具屋に入って行きます。中では若い娘が店番をしており貴方達に挨拶をしてきました。』
AIが店内の様子を話し出すと早速ユキが質問をする。
「このお店ではどんな商品が売ってるんですか?」
『はい。ウチでは主に布の服を扱っております。』
どうやらさっきとは違う店らしい…と私は少しホッとして胸を撫で下ろしていた。
「主人、この店で一番高い服を見せて欲しいニョ。」
メロディが前のめりになりながら大袈裟に演技をする。
『でしたらこちらの絹の服ですね。10Gになりますが、いかがでしょうか?』
そんな感じのやり取りが繰り返され、ユキとメロディはそれぞれ装備を更新していく。
「元の服はこの店で下取りして貰えないかニョ?」
『了解しました。それでは踊り子の服を1G、巫女の服を2Gで買い取りましょう。』
要領の良い妹は少しでもお金の節約出来るようAIに交渉を持ちかけていた。
「そういえばA子さんは元の服はどうしたんですか?」
思い出したようにユキが尋ねる。
「私は元々武器以外装備してなかったのでそのまま着ただけですね。」
自分のキャラシートを眺めながらA子が言葉を返した。
「って事はさっきまで全裸だったのかニョ…。」
メロディは後頭部に大きな汗をかきながら呟く。
「けど、なんでこの村には防具屋が二件あるんだろう?」
私は話題を変えるように個人的に気になっている点を口にした。
「たぶん元は皮の服屋があって後から布の服屋が出来たんじゃないでしょうか?」
A子が自分なりの考えを推論として述べる。
『そうです。この村には元々皮の服屋があり、後から布の服屋が出来たのです。』
文章生成AIはまるでオウム返しのように答えた。
割と単純な誘導でも素直に乗っかってくれるのが人工知能の良い所なのかもしれない。
「ところでカノンさんは何か買わないんですか?」
ユキが少し気遣うように友人の姉に尋ねた。
「うーん…どうしようかなぁ。」
カノンはしばらく悩みながら自分のキャラシートに目をやる。
『グオォォォ!!』
『そんな時、冒険者達の雑談を遮るように獣の如き鳴き声が店内に響く。』
「な…何!?」
カノンは演技なのか素で驚いたのか分からない勢いで声を上げた。
『貴方達が振り向くと、防具屋の入り口に一体のモンスターが立ち塞がっているでしょう。』
「戦闘フェイズだニョ。」
メロディはそう言うとなにやら賽の目が書かれた方眼紙を机の上に広げ、小さな駒を取り出してそのシートの真ん中にセットする。
『レッド・オーガ1体と遭遇しました。バトル開始です!』
人工知能は澄んだ電子音声で高らかにそう宣言した。
つづく
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想