今夜は月が狂おしい程に美しい。白銀の、欠けたところなどない綺麗な満月だ。そんな夜に月と同じような白髪の少女は勤めている屋敷の庭園で膝を抱えて満月を見ていた。彼女の体中に流れる血を凝固したような赤い瞳から、まるで引力によって海が満ちるように、ゆっくりと注がれ続けた水がコップの縁を超えるように、涙が溢れた。涙は彼女の頬を伝い、スカートの上に落ちていった。

「クラリス」
長く綺麗な萌葱色の髪を二つに結んだ少女も庭園に出てきた。クラリスと呼んだ少女の姿が遠目に見えたからだ。
「どうして、泣いているの」
美しい、優しい声でクラリスに問いかけた。クラリスはその目に緑髪の少女を映した。

満月には不思議な力があると言われている。満月の夜には事故や事件が増加する、子供が生まれやすくなる、その他にも様々なことが言われていて、科学的な根拠はないがその力は古来より信じられている。悪魔や魔道師の魔力も満月の日に一番高まる。
そんな妖しい満月の力のせいだろうか、クラリスは普段なら決して言わない自分の胸中を吐露し始めた。

「ミカエラ……あなた最近、マーロン王と親しくしているでしょう? それが嫌だった。ミカエラとたやすく距離を縮めているマーロン王が嫌いだった。
ミカエラとずっと一緒にいたのは、私なのに。
でも、本当に嫌いなのは自分自身なの。
ずっとそばにいてほしい。マーロン王だけじゃない、他の人とあまり喋ったりしてほしくない。
ミカエラは私のものじゃないのに。
なのに、ミカエラが私じゃない誰かと一緒にいると胸がとてもざわついて、本当は言うつもりじゃない言葉が溢れてしまう。それはミカエラの心を傷つけているかもしれない。
ミカエラには幸せになってほしい。でも、私がそばにいたらきっと邪魔になる。私が、ミカエラの不幸になる。それでも私はミカエラのそばにいたい。結局、私はミカエラの幸せよりも自分の幸せを優先する自分勝手な人間なの。
そんなことを考えていたら胸が苦しくなって、気づいたら涙が溢れてきちゃった。
ミカエラもこんな私、嫌いでしょう?」

静かに語り終えたクラリスは卑屈な笑顔でミカエラと呼んだ少女の顔を見上げた。涙が月明かりに照らされ輝いた。
ミカエラはしばらく彼女の瞳を見つめた後、ゆっくりと彼女を抱きしめた。
「嫌じゃないよ。どんなクラリスでも嫌いじゃない。クラリスは私の不幸じゃなくて、幸せだから」

ミカエラの言葉は乾いた土に水を注ぐように、彼女の心にゆっくりと染み込んでいった。
クラリスは自分の目が熱くなるのを感じた。流れ出てくる涙はさっきまでとは違い、温かい気がした。
ミカエラは抱きしめる力を強めた。クラリスは抵抗せず、ミカエラに身体を預けた。ミカエラの鼓動がクラリスの耳に響く。

「私ね、愛がよくわからなかったから、カイル様に聞いてみたことがあるの。そしたら、持論だけど、愛とは我が儘なものではないかって答えてくれた。
私、それは正しいと思うの。私もクラリスに幸せになってほしいけど、私以外の人と一緒になってほしくない。ユキナ様のことを話していたとき、正直少し寂しかった。クラリスはいつでも私のことを見てくれると思ったから。
クラリスは私のものじゃないのにね」

ミカエラは少し笑いながらクラリスに話した。クラリスの涙は止まっていて、幸せそうな笑みが溢れた。
「……ミカエラが嫉妬するなんて意外」
「私だって嫉妬ぐらいするよ。それよりクラリスがやきもち焼いてた方が意外だよ」
二人は顔を見合わせて笑った。
「……このまま時が止まればいいのに」
「……私たち二人だけの世界もいいかもね」
ぽつりと呟いた言葉は夜に溶けていった。




嫉妬には二種類ある。一つは自分が持っていないものが欲しいという嫉妬。もう一つは自分が持っているものを失いたくないという嫉妬。

さて、彼女たちの嫉妬はどちらだろうか?

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envy or jealousy?

ミカクラが好きです。

私の英語の成績は悪いしネットリテラシーも低めなので捏造入ってるかもしれないです。頭を空にして読んでください。

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投稿日:2018/09/01 23:45:32

文字数:1,611文字

カテゴリ:小説

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