午後五時前。
バタバタと仕事を片付けてひと段落した私は、
残り少なくなった缶コーヒーを飲み干した。
やっと客足が落ち着いた。
空き缶を捨てようと、裏口のドアノブを捻ると、
エアコンでひんやりした室内に生ぬるい風がむわっと入ってきた。
室内では気づかなかったが、雨は上がっていた。
青空の上に、飛行機雲が擦れた線を引いている。
アスファルトに、さっきまで降っていた雨の
水たまりがまだ残っている。
雨上がりの晴れた景色は、なんだかきらきらしていて、
世界が生きているように見えた。
まぶしい西陽のトンネルをくぐって、表口にある自販機横のゴミ箱に空き缶を捨てる。
裏口に戻ると、ふと立ち尽くしてみる。
ドアをあけると、また忙しない毎日に還らなくてはいけない。
もう少しだけ、このままで。
西陽に照らされてアスファルトに影が落ちる。
縞々のコントラストの上を白い蝶が横切った。
Uを描いて華麗に飛び上がると、高く高く空へ昇る。
暫く青空を泳いだ後、花を探すように
塀の向こうへ消えていった。
ゆっくりと雲が流れる。
水溜りに反射した空が、ふよふよと揺れる。
夕暮れ時の、じめっとしたこの空気は嫌いじゃない。
夏祭りの日、友達と待ち合わせた土曜日の夕方に似ているからだ。
この生ぬるい風が通り過ぎると、いよいよやってくる。
待ち焦がれた、夏が。
大きく息を吸い込んで、裏口のドアノブに手をかけた。
次のお客様が待っている。
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