『好き。』なんて言葉は時として残酷だ。
あの俳優が好き、あのテレビが好き、あのバッグが好き、
――――――――あの人が好き。
伝えたくても伝えられないのが正直で。
好きと言ってしまえば、きっと気が楽になるんだろう。
それでも、もし嫌いになった時に好きになった“それ”を否定するような気がすんだ。
「・・・別れようか。」
帰り道でそう彼に告げられて、私は耳を疑った。
少し背の高い彼を見上げる。
ずっと前を見て歩き続ける。私を見てはくれない。
「え、どうして?」
「どうしてと言われても。」
彼はポリポリと頭をかじる。
しかし、その姿は何かによって滲んでいく。
「私のこと、嫌い、になった?」
零れそうになる雫を耐える。
同時に目頭がもう限界に熱くなる。
「嫌いじゃない。」
「じゃあ、なんで・・・。」
『寧ろ、』と強く言う彼に私は口を閉ざした。
「寧ろ、好きだ。別れたくない。」
彼の言う言葉に私は頭を悩ませた。
だって、矛盾している。
別れようと言ったくせに、別れたくないとか言う。わがままだ。
そんな事も知らずに、彼は話し続ける。
「お前は俺に一度も『好き』と言ってくれなかっただろ?」
彼の言葉に私は思い出を振り返った。
告白されて『宜しくお願いします。』と一言。
『好きだよ。』と言われて『うん。』の一言。
『好き』という言葉が嫌いだった。
だから言わなかった。
だって分かってくれてるんだと思い込んでいた。
思い間違えていた。
「なぁ、俺のこと好き?」
「・・・うん。」
彼は溜息を吐いて、歩幅を大きくして前に進む。
無意識に彼の裾を掴んだ。
『何?』とでも言いそうな目でやっとこちらを向いた。
「違う・・・、違うよ。」
「何が違うの?」
心臓がバクバクと鳴る。
彼が離れる焦りなのか、緊張なのか。
「す、き・・・だよ。物凄く。夢で見るくらいには。」
緊張と恥ずかしさで、裾を握り締めた手と閉じた瞼が一層強くなる。
多分震えていた。
「うん。」
恐る恐る視界を広げると、はにかむように笑う姿があった。
顔が赤いのはきっと夕日のせいだろう。
「もう一度、つ・・・付き合ってくださいっ。」
そう言うと、彼は裾を掴んでいた手を解いて、私より一回りも大きい手のひらで包んでくれた。
「喜んで。」
私は少し言葉に囚われすぎていたのかもしれない。
言葉は縛らなきゃいけないし、言葉に縛られてもいけない。
思ったことは正直に、たまに口にするのが丁度良いんだろう。
伝え忘れていること、ありませんか?
終
コメント1
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ご意見・ご感想
好音トワ
ご意見・ご感想
感じました!w
私は正直に言うタイプですね! この小説、「好き」 …ですよ!w
2013/05/17 22:32:41