温度のない椅子の上で結われた白いリボンが揺れる。
彼女は退屈しのぎに足をばたつかせながら広がる世界を仰いだ。
その目は、彼女特有の強気な意志を映すかのように真っ直ぐそれを睨み上げている。
ここには、僕と彼女しかいない。
それは目を覚ました時からずっとそうなので特に気にならなかった。
それが普通だった。
そして、世界がゼロとイチでしか構成されていないということと同じくらい当然のように、僕と、リンは双子だった。
「ねぇレン」
砂時計が終わる瞬間のような、サラリと消え入る声でリンは呟いた。
彼女は依然世界を睨み付けたままだったが、この場に存在(い)るのは僕だけだったし、生憎名前はレンだった。
「歌、好き?」
返事をする前に紡がれた言葉で、リンは漸く顔を下ろし僕に笑いかける。
「好きだよ」
「なんで?」
――…マスターが喜んでくれるから、だろ?リンが言ったんじゃないか
そう言うと、彼女は困ったように眉尻を落として笑った。
「私ね、そう思ってたはずなんだ」
「うん」
リンの細い足がゆっくりと止まり、また緩やかに世界を仰ぐ。
「もっとマスターの近くに行きたいの、歌だけじゃなくて、もっともっと沢山!」
彼女は両手を伸ばして何かを掴むような動作を何度か繰り返し、一瞬背伸びをして元に戻った。
「ねぇレン」
僕たちは
「この世界にはゼロとイチしかないけれど、マスターの世界には沢山の数字があるんだって」
ただの塊だ。
「いいなぁ、ゼロとイチ以外も見てみたいな!」
「…、リン」
無邪気に笑うリンの隣に腰を掛け、温度のない白い手を握りしめる。
「人間に、なりたいの?」
言葉が残酷だと知ったのは最近の事だった。
僕が言うと、サッと顔色を変えてリンは黙り込む。
分かっているのだ。
ゼロとイチで造られた僕達はそれ以外にはなれないって。
「そんなの、無理だもん」
一瞬強張った手はゆっくり力を失いうなだれた。
不可能。
僕だって彼女だって充分理解している。
「でも大丈夫!私にはレンがいるもの!寂しくないわ」
そして多分、僕は彼女以上に。
その不可能な願いを叶えようとしている。
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