Double 12話

投稿日:2010/07/18 21:41:39 | 文字数:3,945文字 | 閲覧数:74 | カテゴリ:小説

ライセンス:

前のページへ
1
/1
次のページへ
TEXT
 

 激烈な攻撃を仕掛けながらも、ブリュンヒルドは常にジークルーネの動向に注意を払っていた。シュヴェルトラウテの助力のおかげで、自分の方がプログラムの修復が進んでいる。それでも万が一すらあり得ないように。
 ブリュンヒルドはジークルーネの接近に気が付くと、手を止めてその場で静止した。攻撃の手が止まったことで、防戦一方だったゲルヒルデは大きく距離を取った。既に甲冑はボロボロであり、攻撃を受け続けていたハンマーは半壊しているような有様であった。
「ジークルーネ、何のようかしら?」
 ブリュンヒルドは振り向くことなく尋ねた。背を向けたままなのは余裕の現れである。
「ブリュンヒルド、あなたもあのアニメを見ていたの?」
「はぁ? 何のこと?」
 ジークルーネの放った、この場には不釣合いな一言にブリュンヒルドの気が削がれた。
「何でもないわよ! 忘れてちょうだい!」
 ジークルーネは苦々しく吐き捨てた。これ以上、この会話は無意味であった。

 全くの偶然であったがジークルーネの一言は、この場に完全なる沈黙をもたらした。ジークルーネはこれ幸いとゲルヒルデに向かって大声で叫んだ。
「ゲルッ! このままブリュンヒルドにやられたくなかったら、私に協力しなさい! この場を逃れるにはそれしか選択肢がないはずよ!」
「うーーー。わかった……」
 ゲルヒルデに文句があろうはずがない。ジークルーネの言う通り、生き延びるための選択肢はそれしかなかった。
 
 ジークルーネとゲルヒルデは、ブリュンヒルドを挟む形で対峙した。絶好のチャンス到来である。しかし当のブリュンヒルドに焦りはなかった。それどころか笑みさえ浮かべている。
「フフフ、これで逃げられる心配はなくなったわね」
 ブリュンヒルドにとっては願ったり適ったり。ジークルーネが参戦してくれば、気を払うなどせずとも向こうから近づいてきてくれる。二人同時に相手をした方が手間が省けてちょうど良い。それだけである。
「余裕でいられるのも今のうちよ!」
 ジークルーネは右手に持っていたソードで、真正面から斬りかかった。
「なんなの、その攻撃は……馬鹿にしてるの?」
 ジークルーネのソードはあっさりとブリュンヒルドのランスに弾かれた。しかしジークルーネの表情に焦りはない。何の策もなしに突っ込むほど彼女は馬鹿ではない。それなりの考えがあればこそ、真っ向から勝負を挑んだのである。
「これなら、どうかしら」
 ジークルーネの左手の中で、光の粒子がソードを形を作る。ジークルーネもブリュンヒルドと同じく二本目のソードを作り出す余裕があったのだ。
 一撃目に次いで、すぐさま二撃目がブリュンヒルドへと襲い掛かる。
「だから、どうしたのと言うの」
 ブリュンヒルドは意にも返さず、ジークルーネの二撃目をもう一つのランスで弾いた。
「これで終わりじゃないわよ! ゲル!」
「うりゃーーー!」
 ジークルーネの攻撃にあわせて、ゲルヒルデもまた接近していた。
 ブリュンヒルドの背後からの攻撃、加えて二本のランスはジークルーネの攻撃を弾くために振るわれてしまっている。ゲルヒルデの一撃は、まさに必殺必中の一撃になりうる攻撃であった。
「ペったんこッ!」
 ゲルヒルデは、今までの借りを返すと言わんばかりにブリュンヒルドに向けてハンマーを振り下ろした。
 
 キラキラと輝く欠片が飛び散る。
 ゲルヒルデのハンマーはブリュンヒルドの頭部を捉えた。しかし、ブリュンヒルドの兜は傷一つ付かなかった。舞っている欠片は、ゲルヒルデのハンマーの欠片である。ほぼ半壊状態のハンマーとはいえ、完璧なまでの防御プログラムであった。
「フフ、アハハハハハハハ。私を貴方達と同じだと思わないでちょうだい。私はブリュンヒルド、最強のエレクトリックエンジェルよ!」
 ブリュンヒルドはランスを腰の位置で固定するとその場で回転した。ランスの横っ腹がジークルーネとゲルヒルデをしたたかに打ちつける。二人はそれぞれ逆の方向に吹っ飛ばされた。防御プログラムである甲冑には亀裂が入り、ブリュンヒルドの強打の凄まじさを物語っていた。

「なんて奴なの……」
 ブリュンヒルドが誰よりも高いスペックを持っていることは、ジークルーネもゲルヒルデも理解している。それにしてもこれだけの地力の差があるとは……。
「も、もう許してよ、ブリュン」
 謝ったところでどうにもならないことがある。それでも幼いゲルヒルデの口からは、自然とそのような言葉が漏れた。
「今更、命乞い? やはりあなたはEエンジェルに相応しくない。今この場で消滅してしまいなさい」
「ちょっと待ちなさいよ!」
 ジークルーネは再びブリュンヒルドへと突っ込んだ。戦意喪失気味のゲルヒルデは、あまりあてにならないが、簡単に見過ごせる問題ではなかった。

「フッ。その度胸は見上げたものだけれど、蛮勇だけじゃ実力にならないわよ」
 ブリュンヒルドはゲルヒルデに目もくれず、ジークルーネを正面に据えた。そして斬りかかってきたジークルーネに対して、それよりも格段に速いスピードでランスを突き出した。
「チッ!」  
 ジークルーネは斬撃が間に合わないと悟るやいなや、二本のソードでランスを捌きにかかった。ブリュンヒルドの一撃は、一刀で捌いて、もう一刀で攻撃に回ろうなどと考えられないくらいに速く、そして重かった。
「こ、このっーーー!」
 ジークルーネの叫びも虚しく、ソードは軽々と破壊され、ジークルーネはその一撃が自らの身体に届かぬようにするのが精一杯であった。

「万事休すってところかしらね」
 ブリュンヒルドは今の状況を簡潔に説明した。
「あなたに言われなくても分かってる」
「本当に分かってる? 今更マスターの元に来たいなんて言っても無駄よ。私が許さない。あなた達二人はここで消滅させます」
「フン」
 ジークルーネは鼻で笑った。
「命乞いなんてしないわ。私は私の思うまま自由に生きてやる。この場を生き延びてね」
「フフッ。ジークルーネ、あなたの名前は忘れないわ。おやすみなさい」
 ブリュンヒルドは二本のランスを構えると一気に加速し、ジークルーネとの間合いを詰めた。

 ブリュンヒルドがジークルーネとの距離を詰めた瞬間、待っていたと言わんばかりのタイミングで、赤い光弾がブリュンヒルドの上に降って来た。見ようによっては、まるでブリュンヒルドが赤い光の塊に突っ込んだかのように見えただろう。それほど抜群のタイミングでそれは降ってきたのだ。
「ジークルーネをやらせるわけにはいかない」
 頭上から響いた声はEエンジェル、オルトリンデのものだった。彼女もゲルヒルデの行為に気が付いており、ジークルーネと同じく今回の事態を防ぎに来た一人だった。
「つまり私の敵、マスターの敵になるという意思表示と受け取っていいのかしら?」
「そういうことだ」
 オルトリンデはロケットランチャーを構えたまま答えた。体格に似合わぬ大仰な甲冑に身を包み、既に戦闘態勢は整っているようだ。この場にいる誰とも違う戦闘スタイル、オルトリンデは銃火器をモチーフとした遠距離武器のエキスパートであった。
「オルトリンデ……。どういう風の吹き回しかしら、誰も助けてくれなんて頼んでないわよ」
「遥が、お前を探している。本気で進一郎を止めるつもりだ。それから……助けたつもりはない。たまたまだ」
「そう……礼は言わないから」
「構わないさ」
 ジークルーネとオルトリンデは互いに目だけで笑った。

「フフッ。そこの二人、まさか生きて帰れると思っているのかしら?」
 ブリュンヒルドの甲冑は先の一撃に動じる事もなく、白銀の輝きを保っていた。ノーダメージ、オルトリンデの遠距離攻撃などブリュンヒルドにとっては豆鉄砲に等しいものだった。
「これで五分五分だな。後は運がこちらに味方するよう祈るだけさ」
 オルトリンデは、ロケットランチャーを二挺のコルトパイソンに変化させた。そして、反動を無視した脅威の早撃ち。計12発の光弾がブリュンヒルドへと向かっていった。
 対するブリュンヒルドは何をするでもなく、完全無視を決め込もうとした。
 プログラムである彼女がそれに気が付いたのは、まさに牧進一郎が与えた人格というもののおかげかもしれない。ブリュンヒルドは直感的に自らの危機を感じた。そこからの行動は素早かった、一本のランスをシールドへと変化させ、向かってくる光弾を受け止めた。
「挨拶代わりだ。あまり甘く見ると火傷するぜ」
 ブリュンヒルドのシールドには穴が空いていた。貫通した光弾は甲冑で受け止めたが、何もしなければ幾ばくかのダメージがあったことは間違いない。
 プログラムゆえに精確な銃撃、二挺パイソンによる脅威のワンホールショットだ。オルトリンデにはオルトリンデなりの戦い方がある。
「いいわ……本気で相手してあげる」
 ブリュンヒルドはシールドで身を固め、ランスを突き出し様子を見る。ここからは今までとは違い慎重な戦い方が要求される。Eエンジェルのリーダーとして、彼女の本領は基本的には守備にこそある。誰にも負けないこと、頂点としての自覚がそこには現れていた。

 背後には破壊プログラムを再構築し、完全復活したハンマーを携えたゲルヒルデが。頭上には正確無比な銃撃手のオルトリンデが。そして前方にはロングソードを構えたジークルーネが。
 ゲルヒルデとジークルーネ相手に、圧倒的な格の違いを見せ付けたブリュンヒルド。それでもまだまだ本気ではない。ここからが彼女の本領発揮であった。


活動停止中。

もうダメ。疲れてしまった。

もっと見る

作品へのコメント0

ピアプロにログインして作品にコメントをしましょう!

新規登録|ログイン
▲TOP