※※百合注意※※
ルカリンで、クリスマスなお話。
「メリークリスマス! ルカちゃん!」
自室で譜面チェックをしていたルカの前に、小さなサンタがやってきた。
++++ 恋人はサンタクロース ++++
おなじみの赤い帽子に赤い服。ただ、ボトムだけは本来のものとは異なり、かといって近年一部で流行りのミニスカでもない。着ている彼女のこだわりなのか、サンタ服仕様のホットパンツだった。
その愛らしい姿に、ルカは微笑をたたえて彼女に応じる。
「メリークリスマス、リン。可愛いわ」
「えっへへ、アリガト! ねえねえルカちゃん、質問があるんだけど。あたしのとこにもサンタさん来るかな?」
別にリンもサンタの存在を信じているわけじゃない。成り立ちや正体は知ってるし、ましてこの電子世界にやって来るサンタなどいないことも承知している。
だからこれはアピールなのだ。目の前の大好きな人に、恋人はサンタクロースになってくれますか、という。
満面の笑みで小首を傾げるといったその様子は可愛らしく、格好の可愛さとも相まって、直ぐにでも彼女のサンタとなってどんなお願いもきいてあげたくなるだろう。普通の人ならば。
だが、生憎リンの相手は「天然」「クール」「サドっ気あり」の3拍子がそろった巡音ルカだった。リンの様子を可愛いと思っても、いや、可愛いと思ったからこそ、口をついて出るのはちょっとだけ意地悪な言葉。
「リン、サンタさんはいい子の所に来るのよ」
「いい子だよっ!」
「そう? じゃあ、いい子のリンは私のお願いもきいてくれるかしら?」
「う、うん……」
くすりと微笑むルカの様子に不審なものを感じながらも、リンはうなずいてしまった。それは罠だということも知らずに。
「それじゃあ、リン。まずはここに座って」
「え……?」
ここに、とルカは言いながら自身の腿を叩いた。そう、その上に座れというのだ。彼女の腿の上に。
「あっ、えっと……」
なんとなく恥ずかしいものを感じて、顔を紅く染めて戸惑うリンに、ルカは追い討ちをかける。
「お願い、きいてくれるんでしょう?」
一度、お願いをきくといった以上、今更できないなどと、負けん気の強いリンには言うことができない。軽く息を吸い込んで気合を入れ、ルカに背を向けてその前に立った。もう一度息を吸い込んで、いざ腰掛けようとした瞬間、ルカがリンの腰に手をかけて反転させた。
「きゃっ、な、何ー?」
体にかかった突然の負荷に崩れた体勢をどうにか保とうとリンがつかんだものはルカの肩。そして目の前には彼女の顔が合った。
「えっと、ルカちゃん……?」
何が起こったのか、いまいちつかめないリンが頬を染めて上目遣いにルカの様子を窺えば、ルカは妖しげな微笑を返す。
「そっち向きじゃリンの顔が見られないわ。こっちを向いて座ってくれないと」
「ええーっ!」
「できない?」
「でっ、できるよ!」
売り言葉に買い言葉というわけじゃないが、いいようにルカの望む回答を引き出されてしまうリン。のろのろとルカの腿をまたぐようにしてその上に腰を下ろす。不安定な体を支えようとルカの肩に手をかければ、自身より下にルカの顔があるという新鮮な状況に、胸の奥で刻むビートがスピードを上げてゆく。
(うわぁ、なんだこれ。ルカちゃんの顔が近いよー)
ドキドキしてるリンの腰に両手を回しその体を支えながら、ルカはにっこりと微笑んで、爆弾発言を口にした。
「じゃあ、二つ目のお願い。キスして。リンから」
「え? え? えー!? だ、だって今……」
「お願いは一つだけなんていった覚えは無いわよ。さっきも『まず』って言ったじゃない」
さながら蛇ににらまれた蛙のように、妖しく微笑むルカに魅入られたリンに反論は思い浮かばない。ルカの視線に誘われるままに彼女の頬へ手をかける。既に頭の中は真っ白で自分が何をしているのかもよく理解できないでいた。ただ自分の鼓動がうるさいことと、全身が熱いことだけが感じられた。
ゆっくりとルカへとリンの顔が近づいてゆく。もう少しで唇同士が触れ合うというところで、ルカが動いた。リンの唇を掠めるように頭を上げたのだ。
「っ!」
自分からするつもりで動いていたリンは、不意打ちで与えられた感触に驚きのあまり体を引いた。かろうじて顔は離れたものの、体はルカにがっちりと捕まえられていて逃げることはできない。
「うー」
せめてもの抵抗として、うなりながらルカを見つめるが彼女には通じない。悪びれた様子も無く、「ごめんなさい、待ちきれなかったの」なんて言っている。
「もう、ルカちゃんなんて知らないっ!」
(ひ、人が恥ずかしい思いしてがんばってたのにっ!)
ご機嫌なルカとは反対にリンはすっかりむくれてしまった。
そんな様子すら愛おしいとルカは一つ微笑みを浮かべると、腰に回していた手をリンの背へと移動させ、彼女の体を引き寄せる。そして目の前に迫ったリンの首筋、鎖骨、肩口へと、わずかに見える彼女の素肌へくちづけた。
「ちょっ、ちょっと、ルカちゃん?」
「ねえ、リン。あなたの所にサンタは来たかしら?」
先ほどまでのちょっと意地悪な表情はなりをひそめ、代わりに浮かぶのは優しい優しい微笑み。それは先ほどまで機嫌を損ねていたことをリンに忘れさせるには十分で。
思わずこくりとうなずいてしまう。でも、まだどこか素直にはなれなくて、口から飛び出る憎まれ口。
「でも、プレゼントはまだもらってないよ!」
「リンは何が欲しいの?」
「……ぎゅってして欲しい……」
恥ずかしさから答える声はとても小さい。だが、ルカは聞き逃さない。それに応じるようにリンの体を引き寄せ、抱きしめる腕に力をこめる。
「あとは?」
「それから、それから、ね……」
――ちょっぴり意地悪なリンだけのサンタクロース。だけど本当はリンに甘いサンタクロース。リンのお願いは全て全て叶えられた。
END
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