学校が終わってバイト先への道を一人歩いていた。歩き慣れた道、見慣れた風景、違うのは人や動植物位だろうか?交差点の信号待ちでふと教室での事を思い出した。あれは一体何だったんだろう?やっぱり幽霊とか?それとも幻覚?夢にしてはやけにハッキリしていたし、それにあの涙…確かに感触があった…。
「お嬢さん、渡らんのかね?」
「え?あ…いえ…は、はい。」
急にお婆さんに話し掛けられてしどろもどろになった。時間を見ると結構ギリギリだ。今は考えても仕方無いし、仕事に専念しないと…。
「お帰りなさいませ、御主人様。清めのお祓いを致します。」
「ん~月乃たん、さっき魔物に会ったんだぉ~お祓い念入りにお願いだぉ~。」
「まぁ、それは一大事です!すぐお祓いしますね?勿論念入りに♪」
…別に女装趣味がある訳では断じてない。鍛えても鍛えても体力が持たない分ガテン系のバイトが出来ず、かと言って風俗系は法に触れる…そんな事を考えていた時ここの店長に声を掛けられた。最初は女の子だと思われていたので驚かれたが、背が低いし細いので通用する。と言われて何故か巫女カフェ『萌杉神社』でバイトする事になった。最初はかなり抵抗があった訳だが…。店長の好待遇のお陰で開き直った結果『月乃』と言う源氏名で指名率No.1になってしまった。
「月乃ちゃん、4番卓の御主人様にお茶とお菓子をお持ちして。」
「はぁい、かしこまりました♪」
金の為とは言え、我ながらよくやる!ええぃ!触るな後ろの油デブめが!毎度毎度茶ぁこぼしやがって勿体無ぇんだよ!
「やっほー月乃ちゃん。」
「あれ?ミドリさん?お久し振りです。」
「お仕事中じゃないの?はい、オーダーは健気風味でね。」
「…もぉ!ご主人様ったら何処迄出ていらしたんですか?!月乃は…月乃はご主人様の
事が心配で心配で…!枕を濡らす日々でしたのにっ!」
「…マジで役者んなれるよな。」
「怒りますよ~?ご主人様~?粗茶でございま~す。」
「兄貴元気か?」
「ええ。」
時折店に来るミドリさん。頼流…つまり兄さんの先輩に当たる。前に頼流がバイクで事故った時からちょくちょく顔を見せては色々手伝ってくれて、頼流が退院した後も店に来ては売り上げに貢献してくれる。優しくて良い人だとは思うけど…。
「良いねぇ~白着物に緋袴…。」
多分半分以上はミドリさんの趣味なんだと俺は思ってる。
「お疲れ様でした。お先に失礼します。」
バイトの時間が終わると外はすっかり暗くなっていた。既に酒が入ってる人も居て家までの道は少し治安が悪い。酔って頭が働いてないのも手伝ってか、女と間違われて絡まれる事が何度もある。
「…お嬢ちゃん。」
ああ、またかよ…誰がお嬢ちゃんだ!誰が!
「あの、俺は男で…!」
「お嬢ちゃぁ~ん…。」
「は…い…?」
間の抜けた声しか出て来なかった。目の前に立ちはだかる特撮に出て来そうな物体を見たから。
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