「親子の本音と時間」



私は…甘いのかもしれない……


会社勤めをして30年…あと定年まで10年ない……

仕事一本でやってきた私にとって、それは少し寂しい……


20年前に旦那と離婚……

一人息子を引き取って女手だけで育ててきた……

息子を養うには精いっぱい働かなくてはいけなかった……

そう、私はプライベートを犠牲にして仕事に生きてきた……


そんな息子は今25歳

大学を出たあと、就職に失敗してフリーターとして生きている

しかし、彼にとって、それが親に対して引け目を感じているのだろう…

去年、近くのおんぼろのアパートで一人暮らしを始めた…

しかし…バイトだけで生活できるほど世の中は甘くない


半年前……息子は私に相談するのが嫌だったのか……それとも信頼されていないのか……私の通帳を勝手に持ち出した……


それは私が人生をかけて貯めたお金……つまり、私の犠牲にしてきたものの代価……

本来なら、気づいたときにすぐに問い詰めるべきである……

けれど…もともと、私の貯金は「彼」を育てるためのお金……

私の生活費は今の給料でなんとかなる

他人ではなく、彼にとられたなら…彼がつかってくれるなら、それでよかった……

彼にも父親のいない苦労……仕事で忙しくて寂しくさせていた苦労……私のせいで苦しんだこともあったことだろう…

その罪滅ぼしという意味もあった……







しかし……そんなある日……

私の職場に電話がかかってきた

それは病院からだった

私の体中の血がさーっと引いていくのがわかった


私は職場を飛び出し、タクシーで病院にむかった

病院につくなり、看護師に「彼」の場所を聞くことも忘れ、病院中を「我も忘れ、ただ闇雲に…ただ必死に走った」


そんな異常な私の姿をみた一人の医師が、私の手を強くつかんで理由を尋ねる


「息子が……交通事故を起こして、運ばれて……連絡きて…それで…それで…」


息が切れ切れな私の曖昧な説明で理由を悟った医師は、一つの病室に案内してくれた


すると、その部屋のベッドに「彼」の姿があった

彼はこっちを見ると、バツを悪そうに顔を逸らした

パッと見で腕と脚に包帯とギプスが巻かれているが……大丈夫そうだった

とたんに私は自分の体の制御ができなくなって、彼に近づいて……ぱちん!と大きく平手うちをした

いままで…一度だって手をあげたことがない息子に対して、はじめて手をあげた瞬間だった

平手うちされた「彼」はうつむいたままだった

次に私は、彼を抱きしめた


「ばかっ!ばかっ!なにやってんの!心配したんだから!」


私の大声が病室に響く


「飛び出してきた子供をよけて、友達の車を壊したあげく……こんなにケガまでして!!」


事情は病院からの電話で知っていた……冷静に考えれば、この時、病院側に事情を話したのは息子だったのだろう…

だが、「息子が事故にあって病院に運ばれた」の一言で頭が真っ白になってしまって判断できていなかった


「……ごめん…また、母さんに迷惑を……」


友達の車にのって壊した……他人の車で事故を起こしたら保険はきかない…それのことだろうか


「…俺…駄目なんだ……仕事もなく、母さんの金を盗んで、事故まで起こして…本当…俺なんて…あのまま死んだ方が……」

――パチンと再びなる

「バカ息子!私がどんなに痛い思いしてあんたを生んで、どんなつらい思いしてあんたを育ててきたか!」

「知ってるさ!!知ってるから……俺は…駄目な俺は母さんの足かせになっていることを理解しているんだ!俺がいなかったら、母さんは幸せになれたんだ!」


それは彼の本音だった

どうしようもない自分自身に気づいてはいるもののどうしようもできない蟻地獄にはまっている彼


「足かせだろうと、腕かせだろうと、なんでもいいの!あんたがどんなに立派だろうと、そうじゃなかろうと私の大事な息子なことに変わりはないっていってるのがわからないの!!」


これが私の本音……

旦那と別れても、いろんなものを犠牲にしてきたも、生きる気力を失わなかったのは彼がいたから…


「だって…だって…俺…どうしたら……頑張ったって……何も変わらないから…」


息子の涙を見たのは…いつ以来だろうか……

ずっと一人で無理させてきた……


「どんな状態になろうと、私はあんたの味方から変わりはしない……二人で頑張って行こうじゃないか……」


私に出来ることなんてそれくらいなんだから……


今思えば…これがお互いの本音を全力でぶつけあった初めての出来事だったかもしれない…

本気でぶつかり合わずに本当の家族になれるはずはなかった……それを痛感した出来事だった


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親がウザい?

親が嫌い?

親が鬱陶しい?

親のようにはなりたくない?

そういうことを思うのは当たり前……誰もが子供のころにそう思ったはず


しかし、いずれ気づく……

子供は親をみて育つ

親は子供から学んで親になる

どっちかが欠けたら、成り立たなくなるということに

そして、大切なものは近くあって、いつもないがしろにしているということに



当たり前はありがたみを失わせる

そして、なくした時に気づく

その「なくした時」っていうのが「亡くした時」でないなら、まだ間に合う

【親子が親子でいられる時間は、人生の一部の時間だけなのだから……】

亡くす前に出来ることはやっておくべきだと強く思う

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【連想ゲーム】親子の本音と時間【しるる】

この物語はふぃくしょんです

「我を忘れ、闇雲に走った」⇒「心配して」 です

自分の腕が落ちすぎててびっくりー(棒)

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投稿日:2014/10/11 09:42:53

文字数:2,309文字

カテゴリ:小説

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