3.ミクオ
主人の呪術の腕前は確かだったようで、僕は時を超えることに成功した。
最初に飛び込んできたのは、美しい北斗七星だった。それは僕の主人のいた時代と変わらず白く輝いていた。
次に地上に目を移して驚いた。空の星よりもおびただしい数の光があふれていたのだ。
「なんだ……これは!」
一瞬、天と地を間違えたのかと思ったが、どうやら違う。このたくさんの光は、どうやら人の家のようだった。
小さいけれどもしっかりとした造りの家が、寄り添うように集まっている。
それは、見渡すかぎり、どこまでも広がっていた。
「……都……なのか? 」
僕は空中に浮かんでいる。炎に焼き尽くされたことで僕の虫の体は失われたが、生まれた自我がひとつの塊になっている状態だった。きっとほかの人間が見たら、光の玉が浮いているように見えるかもしれない。
「ああ、これが人魂という状態か。虫の僕が人魂だなんて……
妙に面白いよな。」
体がふるふると震える。心だけの塊で、僕はしばらくそのあたりを飛び回った。
小さな家をのぞくと、昼間のような明るい光があふれていた。ちいさな子供が、本を読んでいた。
「あれ……紙、だよな。あんなにしっかりしたものが、たくさん」
鮮やかな色の絵に、文字がついていた。他の家も覗くと、同じように本がある。
「千年後は、貴族しかいないのか! 」
小さな子供が、字を読み、紙で作られた本を持っている。僕にとっては信じられないことだった。
少し大きな建物を見つけて中を覗くと、たくさんの食べ物が並んでいた。
「すごい……これは、市か!」
夜でも明るい、建物の中にあるその市に、人が並んで銀色の通貨と物を交換している。紙が惜しげもなく配られていた。品物の絵が描いてあり、『年中無休』と書いてある。
「すごい……毎日、市が立つのか?! しかも、専用の建物の中に?!」
これにはさらに驚いた。主人の時代では、市は月に一度、決まった場所に立つものである。毎日品物を持ってくる労力を考えただけで、僕の意識が遠のきそうになる。
市の建物に、石のようなもので彫られた文字がついていた。文字は、ありがたいことに千年後も変わらなかったようだった。
「スーパー……千年後の市は、すーぱー、と、いうのか」
僕はふらりと宙に浮かびあがった。そして、ぼんやりと千年後の景色を眺めた。
夜なのに、星空よりも光があふれている。市が毎日立っている。
「……どうしろっていうんだ……」
ふらふらと高い位置に昇っていく僕の目の前に広がる、どこまでも広がる無数の光の海が僕を追い詰めた。
主人は言った。「千年後の兵部卿の子孫を不幸にしてこい」と。でも、こんな時代の人間を、どうやって不幸にすることができよう。
すべてが、眩しかった。
「主人……無理だよ……こんなに明るくて、食べ物があふれて、きれいな建物と本と文字があって」
そんな時代の人間を、不幸にできるはずがない。
しかし、命令は命令だ。失敗したら、僕はきっと消されるか、あの蠱毒の壺の中に逆戻りだ。
それだけは、絶対に嫌だった。
「兵部卿の子孫は……」
すぐに見つかった。時を越えてすら、呪いの標的を示す青い炎が、ちらちらと部屋に燃えている。
「あの家だ」
小さいけれども、小奇麗な、二階建ての家だった。その二階の窓に、青白い炎が揺れている。他にも似たような呪術の光の見える家もあったが、僕のための炎は、この家だけだ。
僕は意を決してその窓に近づき、中を伺った。
元服したての年頃のような、若い男子が座っていた。何やら光る板をのぞき込んでニヤニヤと笑っている。
「……幸せそうだな」
やはりな、と僕は思う。この時代に、不幸な人間はいないのだ。
少年は、光る板を眺めて笑っている。
「……あの、光る板を壊せば、少しは不幸になってくれるだろうか」
……許せよ、と僕は、幸せな少年に向かってつぶやく。
「僕はもう、蠱毒には戻りたく無い。……もう、痛い思いは嫌なんだ」
たとえ自身が虫だとしても、意識を持った以上は意志がある。さて、どうやってこの光の板を壊してやろうかと近づいた瞬間、強烈な思念が僕の体を捕らえた。
思わず悲鳴を上げて飛びのこうとしたその時、声が、歌が、そしてそれを歌う思いが引きつけられたままの僕の体を切り裂いた。
「つらいつらいつらいつらい痛い痛い悲しい悲しい眠い痛い苦しい嫌だいやだいやあああぁぁぁぁ」
周囲の幸せが嘘のように、叩きつけられた負の感情に思わず僕は目をつぶる。
押し寄せた感情の風圧におそるおそる目を開けると、光る板の中に女が見えた。
あっけにとられる僕の目の前の、光る板の中で、不思議な服を着た若い女が唄っている。
光る板が少女の声で泣き叫び、それに反するように標的の少年は笑っている。
聴覚を引きちぎるような、襲い来る痛い言葉の波に切り裂かれながら、僕はじっと目をこらして『彼女』を見つめた。
彼女が泣き、標的が笑う。
やがて、僕は気がついた。
「ああ、こうして標的が浄化されているのだな」
呪術という人の心を元にして生まれた僕は、光る板に封じられている彼女が、自分と同じ『心』の存在であることを、すぐに悟った。
「この光の板が持ち主のかわりに泣くのか。……だから人が、幸せになるのか」
改めて千年後の世界に感心した。
「人の心さえ、その不幸さえ浄化する道具があるのか……」
なんにせよ、僕の目的は、兵部卿の子孫である少年を不幸にすることだ。
彼のかわりに泣きわめく『光る板の女』がなくなれば、この苦しい声はすべて少年の元へ返る。
僕は、泣き続ける彼女に向かって、意識を向けた。僕の心が、人の手の形となり、『光る板の女』へと向かう。この女も、僕と同じ、心だけの存在だ。
ならば、僕の意志を伝えることができるはずだ。
僕はもう、蠱毒には戻りたくない。辛い思いも痛い思いも嫌だから、僕は彼女に手を伸ばす。
僕のために。僕を操る主人のために。
僕は人として意志をもつ。
「……泣くな!」
彼女に向かって叫んだ瞬間、僕は人の形をとった。叫んだ意志が手の形となった。届けと伸ばした右手にふと触れた、彼女の『意識』の端を、力任せに強く『掴んだ』。
* *
【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』 3.ミクオ
素敵元歌はこちら
Yの人様『ヒカリ』
http://piapro.jp/t/CHY5
歌詞引用させて頂きました。
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