鈴虫が合唱する音。世はもうすっかり夜の様で。
いつもと変わらない風が、桃色の髪をそっと揺らす。
真上には私を見つめるかのような細長い三日月。

私の名は巡音ルカ。

神が居ると信じられ、何百年も昔からまつわられてきた。
その有名な大型神社、巡音神社の跡継ぎ。

この神社には代々跡継ぎが居る。
それは先祖の為なのか、誰の為なのかも知らないけど。

ちなみに世間では私の存在を隠されている。
なぜなら、世ではもう巡音神社は滅びたと言われているからだ。
私が生まれた20年前・・・この地ではまだ巡音神社は確かに存在していた。

先祖は毎日修行の日々を送っていたらしい。立派な伝統を継ぐために。
それに対して私は毎日夜の街に飛び出しては男と遊んでいた。
もちろん、遊びに出かけている間だけは私は「普通の女の子」と、して。
しかしある日、私が神社の跡継ぎだということが漏れていた。
漏れていた理由・・それは当時私の愛人、紫色の髪の青年だった。
彼とは長い付き合いで、幼い頃に森に迷い込んだ彼を私が見つけたことがきっかけで知り合った。
私は跡継ぎとして、世間に出ることは許されなかった。だから彼が初めての友達、恋人。
歳も近く、お互い成長してからは毎晩肌を重ね合って愛を感じあっていた。
しかし、彼は私の事情が分かると、すぐに情報を世間へ撒き散らした。つまり私は裏切られた。

巡音神社は昔から日本でも信者の多い教。
その跡継ぎは毎日の様に遊びまわっていたということが信者の耳に入った。
そして、巡音家の修行の場、とある森が信者によって焼かれた。
私が遊びまわっている間、私の家族はそこで修行していた。

私はあの夜、家に帰った。
そして目を疑った。

「森が・・・無い・・・?」

初めてあんな気持ちを味わった。
家族は焼け帰らぬ人となってしまった。

何も消えてしまった。


そして巡る音神社は滅びた。
だが、今更私は世間に戻れる訳がないのだ。
だから私はここで一人で生きている。誰とも口を交わすことのない、孤独な日々。
そんな私の楽しみと言ったら、夏の終わりのこの夜、庭に出て静かに眠ることくらいだった。
そして夜にはよく、私の体を目当てに強引な手段で私に襲いかかる男どもがいる。私は怖くてたまらなかった。
空に悠々と浮かぶ月を見上げていると、悲しくもないのに涙が頬をつたう。

「あの月上に母上、父上、兄上がいるのだろうか・・・」
私は、一人でぽつりと呟いた。

月が雲に曇った。
陰った月を見上げ、ふとそろそろ寝床に移ろうとした。
自宅に戻る為、いつものように暗い竹林の闇中を歩いていた。その時だった。

ガササッ

遠い場所で何かが揺れる音がした。
遊んでいたとはいえ昔からここで世界が成り立っていた私。
この竹林に住む動物ではないことくらいすぐに察した。

ガサ・・・ガサササッ
しかし、音はどんどん近くに近づいてくる。

知らない、見えない恐怖に怯えた私は、おもわず目を伏せた。そして

「いたたたた・・・ぁ・・あれ・・?ここ、どこー・・・?」

張り詰めた空気と一点、やんわりとした少々間抜けな言葉が聴こえた。
私がいつも怯えていた低く、力の強そうな男性の男ではなく、優しそうな
自分よりも少し年上のような女性の声だった。
女性の声を聴くのは、何年ぶりだろうか。何故かとても安心した。それと同時に、なぜか鼓動が高ぶる。

彼女は酒で酔っていた。そのせいか言葉も上手く通じず、とりあえず家に泊まらせることにした。


家につき、カンテラの様な灯りを灯した。
ふと気づいた。私の家には年頃の女子が眠るようなベッドはなく、布団しか無い。
・・・こんなに人に気を使おうとするこの気持ちは何なのだろう。自分でも不思議になった。

彼女を横にし、薄い布団をそっと掛けた。スースーと静かに寝息をたて、とても可愛らしい寝顔で眠っていた。
なぜか鼓動がさらに高ぶる。何故だろうか?そういえばこの感覚は紫の青年と同じ様な・・・。



次の日の朝、私は庭の小鳥のさえずる音で目覚めた。
すっかり彼女を運んだ事など忘れていて、しかも彼女を運んだ疲労で寝坊してしまっていた。
とりあえず起きて、朝食となる木の実を探しに森にでかけようと動いたその時だった。

トントントントン・・・と、野菜を切るような音がしていた。
この家に住んでいるのはもう私一人だけなのに・・・。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

製作途中。

閲覧数:232

投稿日:2012/04/16 23:24:03

文字数:1,830文字

カテゴリ:小説

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