「……誰かしら? まさか、ハク!」
 ルカは慌ててハクと連絡を取ろうとしたが、うまく通じないようだった。
「ハク、返事をしてください! ハク!!」
「ちょっと借りるわよ」
 ルカの呼び掛けにこたえたのは、聞き覚えのない声だった。
「貴方がカナデンジャーの……」
「私は巡音ルカです。貴方は何者ですか」
「私は神威メグミ。まあ、私の正体はそこにいる誰かに聞けばわかると思うけど。このメロチェンジャー、かなり旧式みたいね。まるで相手にならなかったわ」
「貴方、まさか!?」
「そうね、交渉のために連絡したの。咲音メイコと雅音カイト。2人でベイエリアの廃工場に来なさい。そこですべてを終わらせてあげるわ」
「何だと!」
「私が復讐しないといけないのは3人だけ。他の4人には用はないの。邪魔さえしなければ、私は何もしないわ」
「…………」
「ハクが……あっ」
 メイコが体を起こそうとするが、痛みが走ったのか顔をゆがめた。
「2時間後に来なければ……」
「メグミ、やめないか!」
 後ろからガクトらしき人物の声が聞こえてきた。だが、それもすぐに消えた。そして、通信自体が途絶えた。
「…………最悪だわ」
「ハクを一人にすべきじゃなかった」
 メイコとカイトは自分たちの判断を悔やんだが、もはや時間が戻らないこともわかっていた。
「ルカ」
 メイコはルカの顔を見た。彼女が悩んでいるのは表情からもすぐにうかがえた。ルカの頭の中には、再び襲いかかってくるであろう、狂音獣の事でいっぱいのはずだ。かといって、仲間を見殺しにすることは何としてでも避けたいという心理も働いている。
「ルカ姉、行かせてあげようよ」
 長く、居心地の悪い沈黙を破ったのは、リンの言葉だった。
「リン……」
「もし、このままハクを見捨てたら、きっと、みんな後悔すると思うよ」
「…………しかし」
「狂音獣なら、僕達が何とかして見せる」
 カイトが反論しようとしたが、間髪いれずにレンが言った。
「相手の手の内はわかったんだから、何とでもなるわよ」
 ミクもそう言って、暗にハクのもとに行くように促す。
「メイコ」
「私は大丈夫。行きましょう。なるべく早く帰ってこれるように」
「そうだな」
 メイコとカイトは、ハクを救うため、『オクトパス』から出撃した。その30分後、狂音獣が現れたとの一報が『オクトパス』にいるルカにもたらされた。


「さあ、約束通り、2人で来たわ」
「逃げなかったのね。いいわ」
 メグミが姿を見せる。
「ハクはどこ」
「答える必要はないわ」
 メグミはすぐにメロチェンジャーに手を伸ばした。
「コードチェンジ!!」
 カナデパープルに変身したメグミは、すぐさまメイコに襲いかかった。
「話し合う余地はないというの!」
「……私がこの3年間、どう生きてきたか……兄をあんな姿にされて!」
 メグミの手には、刀が握られていた。メイコはすぐさま剣を出し、応戦する。しかし、腕の痛みからか、いつもの動きの俊敏さが見られず、徐々に押され始めた。
「メイコ、変身しろ! 今のままで勝てるわけがない!!」
「カイト、今のうちにハクを探して!! この子を傷つけたらガクトが悲しむわ」
「わかった!」
 兄の名前を出され、冷静さを失ったメグミは、
「逃がさない!」
 と叫び、メグミがカイトに向かって走り始める。メイコはすぐさま足をかけて、メグミを転ばせた。
「貴方の相手は私よ」
 カイトはすぐに工場の奥に走り始める。だが、そこに現れたのは、ザツオンとヘルバッハだった。
「カナデンジャー同士のつぶし合い、見ているだけでも良いのですが……」
「…………できれば、そっとしておいてほしかったんだけどな」
 カイトはすぐさまメロチェンジャーに手をかける。
「戦力が分散している今こそ、こちらにとっては好機」
「コードチェンジ!!」
 カイトはカナデブルーに変身する。
「さっさと片付ける。これ以上、何もさせない!!」


「4人で勝てると思ったのか? 巡音ルカ」
「いいえ。そうは思っていませんわ。シスター・シャドウ」
 マッド・ギミックとザツオンを従えたシスター・シャドウは鞭を手に取り、すぐさま攻撃の指示を出す。
「コード……」
 突然、リンに向かってマッド・ギミックの胴体からアームが伸びた。
「え!?」
 虚を突かれたリンは、両腕をそのままつかまれ、引きずられていく。
「変身させなければお前など、敵ではないわ!!」
 ほかの3人が変身を終える。だが、思わぬ事態に動揺が広がった。
「リン!!」
 レンがすぐさま近づこうとするが、ザツオンとシスター・シャドウに阻まれる。
「ソニック・アーム」
 セイレーン・ヴォイスを繰り出そうとしたルカに、マッド・ギミックの腕が伸びそうはさせまいと攻撃を繰り出す。
「ミク! ザツオンを排除して、レンといっしょに狂音獣を攻撃して」
「わかった」
 防戦一方のルカに代わって、ミクが狂音獣に向かって走り始めた。
「これでも!!」
 ミクが地面を殴りつけ、その衝撃波でザツオンを吹き飛ばした。その合間を縫って、レンがマッド・ギミックに突撃をする。しかし、今度は頭部から機関銃が放たれ、レンはあわててのけぞった。
「ち、近づけない!」
 何本ものギミックを出して攻撃を繰り出してくるマッド・ギミックに対し、何もできなくなってしまった。ルカは額と頬から血を流し、レンとミクは腕や足に傷を負っていた。そして、変身していないリンがマッド・ギミックにつかまったままだ。
「こうなったら……」
 ミクは再び、マッド・ギミックに接近する。それを阻止しようと、シスター・シャドウとザツオンが近づいてきた。
「これでも!!」
 右のこぶしに力を込めると、右腕全体が緑色に光り始めた。
「メイコから教えてもらった力を見せてあげるわ! インパクト・スラッシュ!!」
「なんだと!?」
 ミクが正拳突きを繰り出すと、その勢いで緑色の力の奔流に、ザツオンが吹き飛ばされ、そのままシスター・シャドウをなぎ倒した。そして、強引に道を開いた。そして、その力はマッド・ギミックをも吹き飛ばし、近くにある建物に叩き付けた。
「いまよ、レン!!」
 ミクの言葉にうなづくと、レンはすぐさまリンを救出した。


「まだわからないの? これ以上私たちが戦っても、何の意味もない」
「うるさい! 兄さんを見捨てたあなたが、そんなことを言える口かしら」
 メイコは変身せずにまだメグミと戦っていた。カイトは、ヘルバッハとザツオンの攻撃を避け続けながら、工場の奥へ入り込んでいる。
「復讐の力で私達に勝とうなんて……」
 メグミの手にしていた刀を払いのけると、そのままメグミに体当たりをする。
「考えが甘いのよ!!」
 そして、メグミの持っていた刀を、彼女の手が届かない壁際まで蹴り飛ばした。刀を取りに行こうとしたメグミの後ろに回り、持っていた剣を首に突き付けた。 
「勝負あったわね」 
「くっ」
 逃げようとしたメグミの腕をつかみ、無理やり向きなおさせた。
「あなたとは、これ以上戦う気はないわ。魂も、心も、通っていない今のあなたは、戦うに値しない」
「……」
「それじゃ、また会いましょう。その時は……」
 突然の大爆発に、メイコは身構えた。
「コード・チェンジ!!」
 メイコはすぐさま変身し、爆発音のした方向へと走り始めた。
「…………兄さん」
 メグミは呆然自失となり、その場に座り込んでしまった。


「カイト、お待たせ!」
「何とか逃げ切った」
 傷だらけになりながらも、カイトはメイコに笑顔を見せた。
「ハクはどこにいる?」 
「おそらくこの奥だ。ヘルバッハの奴は、さっきの爆発でしばらくは足止めされているはずだ」
「爆発って……あなたの」
「そう。通路を破壊しておいたから、遠回りしなきゃここまでは来れないよ」
 手当たり次第に扉を開き、ハクを捜索する。
「ハク!!」
 捕えられていたハクを発見した。
「大丈夫? ハク?」
 さるぐつわを外すと、ハクは安どした表情を浮かべた。
「とりあえず、脱出するわ。ちょっと荒っぽいやり方をやるけど」
 メイコは拳に力を込める。
「いくわよ! インパクト・スラッシュ!!」
 赤い力の奔流で壁を破壊すると、3人はそのまま下を流れる川に飛び込んだ。


「ごめんね。ひどい目にあわせてしまって」
 川からあがると、3人は近くの橋のほとりに座り、濡れた体を乾かしていた。
「メグミは……」
「逃げたと思う。でも」
「当分、彼女は立ち上がれないと思うわ」
 メイコはそう言って、変身を解除する。
「水泳は得意だけど、どぶ川に飛び込むのはごめんだわ」
 メイコは体から嫌なにおいがするか、顔をしかめた。
「でも、どうする? 彼女を放置するわけにはいかない。奴らの手先になることはないだろうが、これ以上妨害されても大変だ」
「確かにね……できれば、何もしてほしくないんだけど」
「…………メイコ、もう一度、メグミを説得したい」
「へっ?」
「メグミを私達の味方にしてあげたいのよ」
「それは無理だろ?」
 カイトは、すぐさまそう言ったが、ハクは首を振った。
「ガクトの時だってそうだったでしょ? できないなんて、決めつけてはだめよ」
「…………そうね。兄妹そろって頭が固いのは何とかしてほしいけど」
 メイコがそう言うと、3人は顔を見合せて笑った。ほんの少しだけ、4人で戦った時の事を思い出し、心が和んだ。
「あら、何かしら?」
 メイコはメロチェンジャーからの通信に気がつき、応答する。
「ルカ? どうしたの?」
「大変です。リンが重傷を負ってしまって……それに、メロチェンジャーまで破壊されました」
「…………何ですって!?」
 メイコが大きな声を出している事に驚いたのか、カイトとハクも通信を聴き耳を立てて聞く。
「とにかく、私達4人は『オクトパス』に撤退しました。ハクさんを救出できたなら、いったん戻ってください」
「了解。すぐ戻るわ」
 通信を切ると、メイコは深刻な表情を浮かべる。
「戻るわ」
 メイコはそう告げると、『オクトパス』に帰還した。暗澹たる思いがメイコの心を支配していた。

 つづく

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-16 アヴェンジャー・メグミ Bパート

カナデンジャー16話のBパートです。
ようやくここまで書けました。お読みくださってありがとうございます。まだまだ書き続けていきますので、よろしくお願いします。

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投稿日:2014/03/22 09:21:20

文字数:4,207文字

カテゴリ:小説

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