『ダメだよ、あの先生を好きになっちゃ。』
――昨日言われた言葉がずっと頭の中をぐるぐる回っていた。奏先生とは会ったばかりだし特に恋愛対象に見ていた訳でも無かったんだけど、そんな風に言われると逆に意識して見ちゃう。単純な自分がちょっと悲しい。そもそも、奏先生と羽鉦さんてどう言う関係なんだろ?ただの患者と医者って感じでも無さそうだよね?お互いの恋愛事情知ってる位だから仲良しなのかな?どうしよう、折角本人が居るんだから聞いてみようかな?
「…どこか具合でも悪いのか?優雨スズミ。」
「へっ?あ、いや、何でも無いです!」
「本当に?我慢しても誉めないからちゃんと悪い所は悪いって言って良いんだよ?」
「だ、大丈夫ですから!本当に!かっ考え事してて!!」
手を当てられた額が急に熱を持った。…様な気がして、慌てて体ごと横を向いた。しまった、これじゃあ単なる挙動不審…ごめんなさい、奏先生。こうなったのも変な事言い出した羽鉦さんのせいだ!来たら文句言わないと!
「と、もう時間か…、じゃあ行くけど何か会ったら遠慮しないで言う様に。」
「今日は急ぐんですね?」
「ああ、羽鉦が居ないから人も足りなくてな。」
「お休みですか。」
「聞いてないのか?昨日から発作起こしてぶっ倒れてる、まぁ明日には戻れるよ。」
「え…。」
BSは時々発作と呼ばれる症状が起こる。全身に痛みが走り、野生の衝動が自我を狂わせる。痛みと衝動はその侵蝕率が高い程強まり、酷い人になると大人でも悲鳴を上げる程の激痛が走ると言う。今でこそ抑制剤で抑える事が出来るが、当初はそのまま発狂死する人も少なくなかった。
「あの…大丈夫なんですか?羽鉦さんの侵蝕率って幾つですか?」
「見舞いに行くつもりか?喜ばないと思うけど。」
「え…?そう、ですか?」
「あいつの侵蝕率は77%、抑制剤で抑えているとは言え完全に痛みが消えてはない、
発作中は人に会いたがらないんだよ。」
「奏先生と羽鉦さんは友達なんですか?」
「ん~ギブ・アンド・テイクかな。」
ギブ・アンド・テイク?助け合い?仲良しって事で良いのかな?よく判らないけど。
奏先生は時計を見ると少し焦った様に手元のファイルを確認し始めた。
「ごめん、本当に時間無いから行くよ。」
「あ、はい。」
「西棟の最上階。」
「はい?」
「羽鉦の部屋、止めても行くんだろ?」
お見通し、とでも言わんばかりの少し呆れた様な笑顔でドアの向こうに消えた。
BeastSyndrome -4.先生はお見通しですか-
※次ページはネタバレ用の為今は見ない事をオススメします。
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