-ディーとダムの小屋(床:木材)-
ディー「やあやあアリス。猫ちゃんもいらっしゃい!」
チェシャ猫「面倒なのに捕まった」
ディー「こんなところにまで来ていて、つれないこと言わないでよ。ねえ、チェシャ猫?」
チェシャ猫「誘い込んだのはそっちじゃないか。まんまとアリスが引っかかっちゃった」
アリス「それは、その。本当にごめんなさい」
ダム「だがチェシャ猫にも落ち度はある。アリスをしっかりと見ていなかったせいだろう。確かにディーが悪いが、ディーだけが悪いわけではないだろう」
アリス「チェシャ猫」
<小声、不安そうに>
チェシャ猫「はあ、もう。こっちがディーでこっちがダム。頭のおかしな双子だよ」
ディー「チェシャ猫ったらひどいなー!」
アリス「よろしくね。ディー、ダム」
ディー「よろしく! アリス」
ダム「よろしく」
チェシャ猫「で? アリスを誘い込んで何のつもり? 僕たちは早く城に行かなくちゃいけないんだけど」
ダム「なぜ城へ行くんだ?」
ディー「今お城へ行ったらー、殺されちゃうんじゃない?」
アリス「白兎を探しているの」
ディー「どうして?」
アリス「それは、私がここへ来た理由だから。ねえ、ディーとダムは白兎がどこにいるから知らない?」
ディー「さあ? 知らないね」
ダム「ほら」
アリス「え?」
ダム「ただの紅茶だ。すまないが帽子屋ほど茶葉は持ち合わせていない。我慢してくれ」
チェシャ猫「やっぱり帽子屋より美味しくないけどまあまあだね」
アリス「え、チェシャ猫それ私に出してくれた紅茶で……って自分のもあるじゃない!」
チェシャ猫「えー? そうだっけ?」
アリス「わざと、絶対わざと! さっきも帽子屋の紅茶を飲ませなかった!」
ディー「あはは! アリス、可愛いうえに面白いね。僕、気に入っちゃった」
チェシャ猫「ダム。話を逸らしたようだけどさっさと誘い込んだ理由を言ったらどうなの」
ダム「そう怒るな。ほら、ハーブのクッキーもある」
チェシャ猫「そんなものでこの僕のご機嫌が取れるとでも? クッキーで機嫌を取りたかったらそれはそれは甘いクッキーでも持ってくるんだね」
アリス「クッキーでご機嫌が取れるんだね」
ディー「さあアリス! ここで問題だよ!」
アリス「問題?」
ディー「間違えちゃった! 僕とダムの話を聞いてくれる?」
アリス「え、話?」
ディー「そ! 簡単なお話だよ? カキと大工と、えーっと」
ダム「セイウチの話だ」
チェシャ猫「で、セイウチの話が何なの?」
ディー「セイウチだけの話じゃないよ!」
チェシャ猫「ああ、うるさい片割れ。三月兎にそっくりだ」
ディー「ちょっと、僕はあんなに狂ってない!」
ダム「あんなにってことは少しは狂ってることになるぞ」
ディー「もう! ダムはどっちの味方なの!」
ダム「どっちの味方でもない。アリス、紅茶を入れ直した」
アリス「あ、ありがとう」
ダム「構わない」
チェシャ猫「相変わらず淡々としてるなぁ」
アリス「それで、えっと。話って言うのは?」
ディー「よくぞ聞いてくれました!」
ダム「……これから話すは愉快で不愉快な物語」
チェシャ猫「まるで台本を嫌々読まされてるみたい」
アリス「チェシャ猫、邪魔しないで」
ディー「開幕!」
とある浜辺を、セイウチと大工が歩いていました。
セイウチと大工はとてもお腹がすいていました。
大工はふと、海の中へ顔を突っ込んだ。すると海底では、カキの子供たちが眠る準備をしています。
「カキがある。こいつらを食べよう!」
大工はセイウチに声をかけました。
セイウチの表情は晴れ、大工を押しのけて海に顔をつけました。
確かに、カキの子供たちが眠る準備をしていました。
「そうだ。お腹もすいているしちょうどいい」
セイウチと大工は悪い顔をしました。
セイウチは着ていたスーツを整え、海の中へと入っていきます。
そして、カキたちに声をかけました。
「楽しい話をたくさんしてやろう。陸へ上がらないか?」
カキたちは戸惑いました。けど、セイウチの話も聞きたいと思いました。
ついていくか迷っているカキの子供たちとセイウチに、おばあさんのカキは言いました。
「けれど、まだ陸へ上がる時期じゃない」
セイウチはじれったくなり、おばあさんのカキを閉じてしまいました。
そしてもう一度、言いました。
「ほら、楽しい話が聞きたければ、陸へ行こう。ついておいで?」
「もしもお腹が減ったら」
海に頭を突っ込み、突然介入してきた大工をセイウチは追い払い、一つ咳払いをしました。
「おいで、おいで? 楽しい話が聞きたければ」
カキの子供たちはセイウチの後をついて歩いて行きました。
陸では大工が大急ぎで、即席のレストランを建てていました。
カキたちを連れて歩いてくるセイウチを招き入れ、大工も席に着きました。
「そうだ、パンと食べよう」
セイウチがそう言うと、大工はパンを用意しにキッチンへ行きました。
「お話? お話? どんなお話?」
「楽しい話! 楽しい話!」
カキたちは嬉しそうに楽しそうにセイウチの話を待っていました。
セイウチはにやりと笑いました
「パンと一緒にバターも欲しい! ああ、楽しみだ!」
キッチンでは大工がパンとバターを用意していました。
用意できると大工は大急ぎでテーブルへと向かいました。
けれど、どこにもカキは見当たりません。
大工はゆっくりと机の上を移動して、カキを探しました。
そして大工はとうとう見つけました。
「全部……」
セイウチの前に置かれた、無残なカキの貝殻を。
そう、セイウチが全て食べてしまったのです。
怒った大工は、セイウチを追いかけまわしました。
ディー「ああ。セイウチの話にのらなければ、カキたちは今も安全な海底で眠りについていたでしょう」
ダム「閉幕」
アリス「なんだか可哀想な話だね」
チェシャ猫「そう? 自業自得だと思うけど」
ダム「つまり何が言いたいかというと」
ディー「過度な好奇心は身を滅ぼす」
ダム「おい、ディー」
ディー「もちろん冗談なんかじゃないよ? 僕は本気だよ」
チェシャ猫「たったそれだけの話を聞かせるためだけに呼んだわけ?」
ディー「うん、そうだよ?」
アリス「好奇心に気をつけろってことだね? すべてに興味は持っちゃだめってことだ。わかった」
ダム「何もわかってなどいないだろう」
<静かに、小さな声>
チェシャ猫「アリス行くよ。こんな小屋に長居は無用だ」
アリス「あ、うん? ディーにダム、忠告ありがとう。気をつけるね!」
【扉を閉める音】
ディー「その肝心の忠告が、伝わってないんだけどね」
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