計画の要『闇の魔法使い』を探せ。
月を喰らい蝕を起こす、天体の陰の存在。
暗黒彗星の魔法が発動する時、現実と虚構の境は揺らぎ、
その果てに勇者は生まれるだろう。
(鼓リズムの㊙ノートより.)
暗い門を抜けると、カノンは足元にあるベンチの上に器用に着地した。
「おっとっと…。」
バランスを取るように両手で空を切った後、彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ…、ここって?」
カノンは公園のようなその風景にどこか見覚えがあった。
そこは何やら大きな建屋の裏手らしく、乗用車が1台通れるくらいの道路を隔てて山林が広がっている。
「ガガガッ!」
彼女が思考している最中、下の方から機械音が聞こえてきた。
「あっ!」
見るとそこには小さなロボットと、その横で背中を押さえながら一人の男が踞っている。
「だ…大丈夫ですか?」
カノンは彼を気遣いながらベンチを降りると、近くに手帳が落ちている事に気付いてそれを手に取った。
どうやら状況から見て、男の背中に何かが落っこちて来たらしい。
「イタタ…あれ?これってロボタですよね?」
彼は起き上がりながらその『何か』の正体を確かめるように質問をした。
「ロボタの事を知ってるんですか?」
私は驚いて少し大きな声を上げる。
「ガガ!」
それに呼応するようにロボタも音声を出した。
「ええ、確か第四研究室に置かれてたロボットでしょ?でも最近持ち主が持って帰ったって聞きましたけど…。」
男は彼女の方を向きながら不思議そうに尋ねる。
そう、この場所はカノンがいつも通っている大学の敷地の一角であった。
「なんでもメイド服の女の子が迎えに来たとか。」
彼は怪訝な様子で言葉を続ける。
「えっとぉ…それはその…。」
「それは私の事です!」
カノンが返答に困っていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「うわぁ!?」
男が振り返るとそこには一人の少女が仁王立ちをしている。
「A子ちゃん。」
私は思わず彼女の名前を呼んでいた。
「い…一体どこから?」
突然現れたメイドに対して、彼の方は少しばかり気が動転しているように見える。
「月光町から、満月ロードを通って。」
そんな男にA子はふざけた答えを返しつつ、スカートを摘まんで軽くお辞儀をした。
「おじゃる丸!」
彼女の冗談に男は間髪を挟まずツッコミを入れる。
「また急にいなくなって心配しましたよ。ロボタさんも無事みたいですし、さっさと帰りましょう。」
A子はそう言ってカノンに寄り添うと、先程彼女が降り立ったベンチの方へ向かうように促した。
そのちょうど真上にはなにやら空間を切り取ったような四角い穴が開いているのが見える。
それは台になる足場に乗って手を伸ばせば大体届く高さであった。
「う…うん。」
私はそう返事をして手に持っていた手帳をそそくさと彼に渡すと、今度は両手でロボタを抱え込む。
「ガガ?」
そうしてカノンはベンチに乗ると、まずはその小さな友達を頭の上まで持ち上げた。
「ロボタ、先に行って?」
その言葉を理解し、無骨なロボットはゲートの上に見える私の部屋へよじ登っていく。
彼が無事に引き出しを通り抜けた事を確認すると、カノンも足元を軽く蹴り、その反動で穴の向こうまで跳び上がった。
「うーん、よいしょ…っと。」
彼女は少々不格好に足をバタつかせながら、四角い引き出しの縁を両手で掴んでなんとか自分の体を支える。
「それでは失礼します。」
私が登るのに四苦八苦してようやく向こう側へ辿り着く中、A子は男に別れの挨拶を済ますと、軽快なジャンプと共に異次元のゲートからカノンの元へ戻っていった。
男は後頭部に汗をかきつつ、その様子をあっけに取られて眺めている。
「なんだ、今の…。」
ゲートが閉じた後の宙を見上げながら、彼はポカンと率直な感想を呟いていた。
それから数週間後、大学では文化祭が開催され、カノン達の研究室も一般に公開される事になっていた。
休学していた姉のリズムも久しぶりに研究室へやって来て、
来訪する老若男女に自慢の研究テーマやその実験内容などを細かく解説している。
そんな中、カノンが手持ちぶさたでボーッっとしていると、先日会った彼が部屋の入り口からこちらの様子を伺っているのに気が付いた。
彼女と目が合った男は軽く会釈をして、中で展示されている研究中のロボットの前までやって来る。
「へぇ、これがこの研究室で作られているロボットですか…。」
彼は側で立っていたカノンに声を掛けるように喋り出した。
「はい。元は姉のリズムが研究用に設計したもので、今は私がそれを引き継いでいるんです。」
カノンはそのロボットの詳細について概要を簡単に説明する。
「なるほど…、おや?これは。」
男はさらに隣の作業台に置かれてある紙束に描かれた機体へ目をやった。
「こりゃまた凝ったデザインで…。」
そう言って彼はしばらくパラパラと資料を眺めていたが、ページを捲る毎に段々と目の色が変わり、次第に手の動きが興奮を隠さなくなっていく。
「これは…これもお姉さんが考えられたんですか?」
最後まで読み終えた後、男は少し早口で私に尋ねた。
「えっ?いえ、それは一応私のですけど…。」
カノンはオドオドしながら返事をする。
「貴女が…!?」
意外な回答に男は信じられないという目で彼女の顔を見つめた。
「は…はい。それが何か…?」
私はその視線に少しドギマギした感じで聞き返す。
「ノンちゃーん、どうしたニョロー?」
来客がいなくなって暇になったのだろう、姉のリズムがカノンの方へやって来た。
「いや、これは大したものですね。」
リズムの存在に気付きつつも、男は再び資料に目を通しながら感嘆の声を漏らす。
「最初は見た目に特化したコンパニオンタイプのロボかと思いました、
しかしよくよく調べると内部のメカニズムも非常に考えられている。
俺だってロボット研究者のはしくれ、それくらいは分かるつもりです。」
彼は興奮した様子で長々と賞賛の言葉を述べる。
「は…はぁ。」
私はというと、どこか冷めた気持ちで引き気味に男の演説を聞いていた。
「個人的な見解ですが、ロボットにデザインを求める人は見た目ばかり拘って、逆に機能性を求める人はメカニズムばかり重要視するという両極端な傾向があるような気がしています。この2つの要素を兼ね合わせる、これがなかなか出来ないんだが貴女の設計ではそれが上手く両立されている…ように見える。」
彼は文末で少し自信無さげに呟いた。
「あ…ありがとうございます。」
そんな熱弁にカノンは少し頬を染めながら答える。
「でも、まだ設計段階で…実際に作るところまでは行けて無いんですよね。」
そう言って彼女は情けなく笑った。
それを聞いて男は少し考えた後、先程のロボットに視線を戻す。
「ふむ…、決めました!俺もこの研究室に入らせて貰います。貴女方と一緒にこのロボットについて研究したい。」
そのように言い終わると彼は丁寧にお辞儀をして、いそいそと研究室を出ていった。
「ねぇ、おねぇちゃん。もしかしてあの人も…天才なのかな?」
その人影を見送ったカノンは、横で話を聞いていたリズムに意見を求める。
「どっちかと言うと、ありゃ奇才って奴ニョロね…もしくは単なる変人ニョロ。」
リズムは自分の見立てをそのように妹へ伝えた。
天才と秀才の姉妹の元へ奇才の男がやって来る、
彼らの出会いが予感させるのは新たな物語の幕開けなのだろうか?
今のところ、それは誰にも分からなかった。
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