人目を避ける様に、時々回り道しながら家に着いた。お母さん、お母さん、お母さん…!

「お母さん!」
「リヌさん…!」
「お母さん…!お母さん何処!!ねぇ、お母さん!!」

何度叫んでも返事は無かった。家の中はいつもと同じなのに、帰って来るとお母さんはエプロンのまま『リヌ、おかえり』って言ってくれるの…絶対、絶対、言ってくれるの!仕事で遅くなっても夜中になっても起きて待ってて、言ってくれるの!

「リヌさん…。」
「お母さん!…ねぇ、怒ってるの?連絡も無しに帰らなかったから怒ってるの?
 だったら私ちゃんと謝るよ?ごめんなさいって一杯一杯言うよ?お母さんよく
 言ってたもんね?ごめんなさいはちゃんと言える子になってねって…。」
「リヌさん…。」
「ねぇ…お母さん!」

『リヌ、おかえり』って言って…それから『連絡も無しに何してたの?』って怒って、お説教が始まるんだよね?それで、お説教が終わったら、お母さんのご飯食べて…それから…それから…。

「お母さん…。」
「リヌさん…此処も長く居ては危険です…行きましょう。」
「嫌っ!嫌だよっ!危険って何?!ここは私の家だよ!!私が生まれて、ずっと育って
 来た私の家だよ!!」
「リヌさん!」
「危険なんかじゃないよ!どうしてそんな事言うの?!此処は…此処は私が一番…
 一番大好きな私の家だよ!!」

そうだよね?お母さん…お母さん…!お母さん!!

「…おい、居たぞ!」
「捕獲対象者発見、場所は…。」
「リヌ…!」
「放して!放してよぉ!!」
「…すみません!」
「放し…うぐっ…!」

お腹に重い衝撃が走って、目の前が暗くぼやけて行った。遠くでいっぱい人の声が聞こえた。お母さん…私…ちゃんとごめんなさいって…言える子になったよ…だから…『リヌ、おかえり』って…言ってくれるよね…?

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -61.大好きな場所-

一番あったかくて、一番安心して、大好きな場所

閲覧数:125

投稿日:2010/06/19 20:09:43

文字数:774文字

カテゴリ:小説

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