「私も戦う。」
私のその言葉に翡翠さんは驚かなかった。多分少しは何か考えていたんだろう。だけど表情は決して晴れては居ない。
「私にも出来る事があるんでしょう?」
少し惑って、それからキーを叩いて画面を表示させた。動画サイトらしき映像が映っている。
「これ…動画サイト?」
「はい。此処を含め幾つかの動画サイトにリアルタイムで映像を公式配信する事で
かなりの人間がこれを目にします。」
「そっか、これを使って呼び掛ければBSの人も見てくれるって事に…。」
翡翠さんは少し目を伏せて、私に向き直った。
「私達は悔しいですが違法組織です…世間からはテロリストとしてしか見られない。
私達が何を言ったとしても耳を貸す人は少ないでしょう…ですが貴女なら…
『冰音リヌ』の言葉なら、BSも一般人も耳を傾ける。」
「…翡翠さん…。」
「貴女は晒し者になるかも知れない、もしかしたら歌手として歌えなくなるかも
知れない、霊薬を否定すれば世間は貴女の敵になるかも知れない、誰も呼びかけに
応じてくれないかもしれない、全ては無駄になるかも知れない…。」
「そ…それでも私…!」
「だけど私は信じます。」
「え…?」
「貴女の言葉が届くと信じます。それが奇跡を捨てる選択だとしても、それが正しい
かは判らなくても、きっと皆が貴女の味方になると…。」
「翡翠さん…。」
そっと手が頬に触れた。知らない内に零れていた涙を指ですくうと翡翠さんは真っ直ぐに私を見詰めて言った。
「貴女を傷つける物から私が必ず守ります…力を貸して下さい、リヌさん。」
「は、はい…!」
「………………………………………。」
「翡翠さん?」
温かい両手が頬に触れて、そのまま顔が近付いて…心臓が跳ねた。息が止まりそうな位ドキドキしながら目を閉じた。
――ガチャッ!
「――っ?!」
「あ、悪い、仕切り直すわ。」
「け…け…け…啓輔さんっっっ…?!」
「悪かったって。ノアん所行って来る。」
啓輔さんが出て行った後、びっくりしたのとドキドキしたのとで大暴れの心臓を押さえて顔を伏せた。うぅ…ちょっと惜しいとか思っちゃったし…!私のエッチ!
「…すみません…。」
「い…いえっ!全然!あ、じゃなくて…!その…!えと…。」
「我慢が出来なくてすみません…。」
「えっ…?」
目を閉じる暇も…無しですか?
BeastSyndrome -93.カラスと歌姫-
目は…まぁ、後で閉じて下さい
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